暗記物はいつするべきか? 睡眠と記憶の年齢による変化

工樂真澄

open-book-1428428__340
出典元:pixabay.com

「テスト前日は徹夜で勉強だ」なんて、睡眠が記憶と深く関わっていることをご存じならば、そんなナンセンスなことをする人はいないでしょう。今回は、睡眠中の記憶の固定に関する論文をご紹介します。

暗記は朝するべきか?それとも夜か?

2015年、アメリカのマサチューセッツ大学のSonni博士とSpencer博士は、睡眠中の記憶の固定が、年齢によって異なる仕組みで行われていることを示唆する論文を発表しました。

博士らは、健康な若者128人(18歳から30歳)と、中高年(50歳から79歳)91人をそれぞれ4つのグループに分け、実験を行いました。実験は2つのセッションに分かれていて、最初のセッションでは被験者にコンピューターを用いた記憶課題を課します。まず画面に4x5の20マスが表れます。それぞれのマスには、例えば犬やサクランボ、のこぎりなど、日常見慣れた物の絵が描いてあります。若者は30秒間、中高年は60秒間で、それらの物がどのマスにあるかを覚えるよう指示されます。その後、マス目だけが残った画面の右に一つだけ物が表れるので、その物があったマス目を思い出してクリックしてもらいます。これを正答率が65%に達するまで繰り返します。

このセッションを朝の8時から開始するグループは、その後、昼寝をしないで夜の8時から2回目のセッションを行います。夜の8時から最初のセッションを開始するグループは、朝まで睡眠をとった後に、翌朝の8時から2回目のセッションを行います。

2回目のセッションでは、30分間の映画を見た後、1回目のセッションで覚えた課題について、どれくらい記憶しているかをテストします。このとき、半分のグループだけは映画の前に、「妨害課題」を行ってもらいます。妨害課題は、20マスの中に表れる物は同じですが、最初のセッションとは異なるマスに物が配置されています。当然のことながら、確認テストの前に紛らわしい妨害課題を行うことで、記憶が混乱します。

覚えてから速やかに寝たほうが記憶は強固になる

実験の結果、全体的に若者のほうが中高年よりも良い成績でした。睡眠の効果については、妨害課題を課されなかった場合の成績は、2回のセッションの間に睡眠を挟んでも、挟まなくてもそれほど違いがありませんでした。しかし妨害課題があった場合には、睡眠をとっていたグループのほうが、成績が良くなりました。このことより、睡眠中に記憶がより強く固定されたのだと推測できます。覚えてから速やかに睡眠をとるほうが、記憶は確かになることが裏付けられたと言えるでしょう。

次に、年齢によって記憶の固定の方法に違いがあるかを調べました。睡眠を間に挟んだグループでは睡眠中にポリグラフ検査を行い、睡眠の種類や長さを測定しました。睡眠中は「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」が交互に表れる、「睡眠周期」が繰り返されます。測定の結果、若者と中高年では、レム睡眠とノンレム睡眠それぞれの総合時間は変わりませんが、中高年では若者よりも「睡眠周期」が短くなっていました。また若者では、睡眠の前半には後半よりもレム睡眠が少ないのに対して、中高年ではすべての睡眠時間に均等にレム睡眠が表れました。

グループごとに各人の睡眠構造とテストの結果との相関を調べると、若者では、睡眠の最初の4分の1にノンレム睡眠が多い人のほうが、記憶力テストの結果が良い傾向がありました。中でも「徐波睡眠」とよばれる脳の活動が低下している状態が長い人ほど、成績がよくなる傾向がありました。中高年ではこのような傾向は見られませんでした。ただし、中高年の中でも成績がよい人たちは、睡眠の前半にレム睡眠が多く表れる傾向がありました。

この研究から、若者と中高年では睡眠の構造が異なり、また記憶の固定のされ方も年とともに変化することが示唆されました。

規則正しい睡眠周期が記憶固定のカギ

記憶の固定には、睡眠周期が規則正しく表れることが大切だと言われています。今回の研究によれば、若者では特に睡眠の最初にぐっすり眠ることが大切なようです。中高年では眠りの質は異なりますが、やはり眠ることによって記憶が強固になることに変わりはありません。加齢による記憶力の衰えを補うためにも、積極的に質の良い睡眠をとるよう心がけたいものです。

今回ご紹介した論文
Sleep protects memories from interference in older adults.
Sonni A and Spencer RM. Neurobiol Aging. 2015 Jul;36(7):2272-81.

参考文献
『好きになる睡眠医学 第2版』内田直 講談社
『脳と睡眠』北浜邦夫 朝倉書店