教えて!認知症予防〜脳神経外科医篠浦先生に聞く(15)

篠浦伸禎

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脳の名医篠浦先生のシリーズコラム第15弾。これまでは食中心でしたが今回からは運動について解説いただきます。

認知症予防に効く運動

今回から認知症などの脳の病気を予防するために有効な、身体からの様々なアプローチをのべます。まず最初に、認知症を予防するために運動がいかに大事であるかということに関しての話です。

運動には主に右脳が関わっていますが、右脳は年をとればとるほど機能が低下するといわれています。ひとつの理由としては、年をとると活力が低下するため、若いころほど体を動かしたくなくなることもあるでしょう。しかし最近は、認知症、心臓病、糖尿病などの生活習慣病が増加しており、運動をすることは生活習慣病の予防、改善効果があるため、ウォーキングなどの運動に取り組む中高年が増えています。ジョギングをする人は長生きするという報告もあります。そして運動はそれのみならず、中高年から始まる脳機能の低下を予防するのにも役立つことが最近わかってきました。

では、どのような脳の病気が運動で予防されたり改善するのでしょうか。
認知症に関しての報告です。6月間のプログラムで運動をすることにより、記憶障害のある老人の認知機能が改善したとのことです。運動している中高年は、アルツハイマー病を含め認知症になる可能性が減ります。特に、有酸素運動が、健康な高齢者の認知機能や注意力を改善します。認知機能が低下している高齢者も、特に女性において、有酸素運動で認知機能が改善します。

有酸素運動の効果

有酸素運動とは、肺から取り込んだ酸素の供給する範囲内で筋収縮のエネルギーを発生させ、呼吸、循環を刺激する運動です。脈拍が1分間に110から120を越えない範囲で、軽く汗ばむ程度の運動です。速足で歩く、ジョギング、サイクリング、水中歩行などが有酸素運動になります。

有酸素運動を週に3日以上、時間は一回20分以上続けると、健康に効果があるといわれています。ねずみを使った動物実験でも、運動がパーキンソンや認知症の症状、不安やうつ状態を脳改善する効果は証明されています。

運動がもたらす脳と体の変化

では、運動は脳にどのような変化を起こすのでしょうか。有酸素運動を行う事により持続的に酸素を体内に取り入れる事こそが、認知症予防に有効とされる理由です。酸素は血液によって運ばれ、その血流増加は脳にも派生し、脳の血管に新鮮な酸素を含んだ血液が送り込まれます。脳内の血液が豊富になる事によって、脳の神経細胞であるニューロンが新しく作られます。

そして、神経細胞同士を結び付ける働きを持つシナプスは脳機能に非常に重要であり、酸素が多く脳に送られると事で活発に働き、記憶力を増強させるのです。

また、脳内の血流増加により、傷ついて機能しなくなった毛細血管の代わりに新しい毛細血管も作られていきます。そうすることで、脳の記憶を司る海馬の脳内ネットワークがうまく機能しなくなることで起こる認知症を予防することが出来るのです。

有酸素運動は、高齢者の脳、特に海馬の体積を増やすと報告されています。海馬の体積は、統合失調症の方が運動しても増加します。有酸素運動のうちジョギングは、前頭前野の機能を活性化します。

さらに、運動で筋肉を刺激する事により血液中の成長ホルモン量が増加します。成長ホルモンは主に脳の海馬(記憶に関係する部分)で脳由来神経栄養因子の分泌を増加させる働きを担っています。脳由来神経栄養因子は脳神経細胞の生存と成長に大きく関わっている為、認知症予防にはとても大切な物質となっています。また、運動によるドーパミン、ノルアドレナリン等の増加が、脳機能の改善効果に関与しているようです。

運動による効果は脳だけではありません。筋肉量や握力の低下はアルツハイマー型認知症になりやすいという報告があります。体の筋力を維持することで、体温や循環量が保たれ、脳にもいい効果があるのです。