久山町研究とは?~認知症予防のデータになった健康意識の高い町

nounow編集部

日本の認知症に関する基礎データとなった福岡県の久山町の50年にも渡る研究(イメージ)

福岡県の久山町で、50年にも渡る疫学調査が続けられてきた。この調査をもとにして、当時大きな課題であった脳卒中、今は認知症関連の我が国の基礎データが揃いつつある。その調査とは?なぜ久山町で?

Do you know “HISAYAMAMACHI”?

認知症に関わる仕事をしている人なら誰でも一度は耳にしたことがあるであろう久山町研究。初めて聞く方のために少し整理しておきたい。

九州・福岡県糟屋郡にある人口約8,400人の久山町は、昭和31年(1956)9月30日、町村合併促進法に従い久原村と山田村の合併で誕生した。いまこの町は「安心・元気な健康が薫る郷の実現」というスローガンを掲げ、“誰もが健康な町”をめざしている。

久山町のホームページを訪れると以下のようなキャッチコピーが目に飛び込んでくる。

50年の健康づくり

(引用)久山町ホームページ http://www.town.hisayama.fukuoka.jp/

久山町は50年にも渡る住民を対象にした脳卒中や心血管疾患などの疫学調査で有名になった。

当時久山町は全国平均とほぼ同じ年齢・職業分布を持っており、偏りのほとんどない平均的な日本人集団だったことが疫学調査の地として選ばれた理由だった。

この研究の発端は、以下の通り。

日本の死亡統計の信憑性に疑問が投げかけられたことにある。当時、脳卒中はわが国の死因の第1位を占めていた。なかでも、脳出血による死亡率が脳梗塞の12.4倍と欧米に比べて著しく高く、欧米の研究者からは「誤診ではないか」との声が上がった。しかし、それを検証するための科学的なデータがなかった。そこで日本人の脳卒中の実態解明を目的として始まったのが久山町研究だった。

(引用)九州大学大学院 医学研究院 環境医学分野「久山町研究とは」より http://www.envmed.med.kyushu-u.ac.jp/about/index.html

そんな中、久山町では当時から町関係者の健康に対する意識の高さや町民の方々の理解もあり、世界でも稀に見る高精度の健康管理事業が幕を開けた。

<故江口浩平町長の回顧録>

『結核に対しては、結核検診をしているが、他の病気についてはどうしたらよいか』と、思案していたところ、昭和36年九州大学医学部第二内科(現:病態機能内科学)から、『健診を実施し、その受診者の追跡調査を行い、お亡くなりになった方は病理解剖することで、脳卒中の正確な診断と発症する要因を解明する研究をさせてくれないか』との相談 があり、議会の賛同も得て第二内科の申し出を受けることにした』

(引用)久山町ホームページ 生活習慣病予防健診の始まり http://www.town.hisayama.fukuoka.jp/50kenkou/start.html

町としての健康に対する意識と、当時の日本の医学的課題、そして研究対象としての条件がマッチしたことから、この久山町の疫学調査が実現したことになる。

久山町研究の特徴とは

  • 全住民を対象(40歳以上)
  • 前向きの追跡(コホート)研究
  • 研究スタッフによる健診・往診
  • 受診率(80%)
  • 剖検率(75%)
  • 追跡率(99%以上)

久山町研究の最大の特徴は、この剖検率の高さにある。正確な死因を知るという点において、剖検以上に正確な診断方法はない。追跡調査の精度も高い。これまでに行方不明となった対象者は数例に過ぎず、追跡率は99%以上。また、久山町研究では40歳以上の住民を5年ごとに集団に新しく加えているため、生活習慣の移り変わりの影響や、危険因子の変遷をもうかがい知ることができる。
(引用)九州大学大学院 医学研究院 環境医学分野「久山町研究とは」より http://www.envmed.med.kyushu-u.ac.jp/about/index.html

この「剖検率」とは、字のごとく「死因・病変などを研究するために、死体を解剖または検査すること」である。剖検率が75%を誇るのは、町ぐるみで協力する空気ができているということ。並大抵にできることではない。

さらに、驚くべきは追跡率99%である。町に人の繋がりの強いコミュニティがあるというこの町独特の条件下で成し得たことであろう。

認知症に関する結論とは

この久山町の長期調査は、脳卒中の実態、高血圧や糖尿病など脳卒中の危険因子を明らかにし、その予防に貢献するなど様々な成果を残している。

そして、認知症に関しては以下のような結論がでている。

  • 認知症の有病率が時代とともに急増している
  • アルツハイマー病の有病率のみが時代とともに増加している(血管性、その他は増えていない)
  • 糖尿病はアルツハイマー病の危険因子であり、その増加の要因である
  • 代謝性疾患、とくに糖代謝異常の頻度が時代とともに急増している

また、高齢者が生涯に認知症になる確率(60歳を迎えた人が死ぬまでに認知症を発症する確率)は、なんと55%だという。
(参考)「わが国における高齢者認知症の実態と対策:久山町研究」九州大学大学院医学研究院 環境医学分野清原裕
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/suisin/suisin_dai4/siryou7.pdf

この久山町研究の成果は、今後の日本の認知症患者数の推計などの基礎資料にもなっている。
糖尿病との関係性、そして同じ認知症でもアルツハイマー型認知症患者だけが増大している点など、とても興味深く重要なデータを残しているのである。

これだけ長期間の研究は類を見ない。今後も福岡のこの小さな町の長期研究結果に注目したい。

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