歩くスピードが遅くなるのは認知症のサイン

大塚真紀

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出典元:pixabay.com

歩行障害には病気の症状として起こるものと加齢による歩行スピードの低下がありますが、認知症が原因となっている場合もあるようです。今回は認知症と歩行速度の関連性を研究したいくつかの論文内容についてご紹介します。

高齢者における歩行障害

歩行障害とは、名前の通り歩くときに支障が出てうまく歩けないことをいいます。60歳以上の高齢者の15%において、なんらかの歩行障害があると考えられています。

歩行障害の自覚症状としては、小さい歩幅で歩くようになった、歩いていると急に突進してしまう、階段の昇り降りでよろめいてしまう、長く歩くと足がしびれる、足がうまく上がらない、またはひきずるなどが挙げられます。

病院に行くと、歩行速度、歩幅、1分間の歩数、歩隔などを歩行の指標として評価されます。歩行障害の原因としては、脳梗塞や水頭症、パーキンソン病、糖尿病による神経障害、背骨の骨折、サルコペニアなどが挙げられます。特にサルコペニアは、近年注目されている病態で高齢者における筋力低下により転倒や骨折、日常生活の質の低下などを招くといわれており、予防のための運動や良質なタンパク質の摂取などが推奨されています。

一方で、アルツハイマー病をはじめとする認知症でも歩行障害が起きることが注目されています。
出典:汐田総合病院健康コラム

認知機能と歩行障害

今まで多くの国において、認知機能と歩行障害に関する研究が行われています。2012年にカナダで行われた国際アルツハイマー病会議では、歩行速度の遅れや歩幅の変化などの歩行障害は認知機能の低下を表している可能性があると報告されています。

具体的には、スイスのチームが行った研究によると認知機能の正常な参加者1153名を追跡したところ、アルツハイマー病を発症した参加者は健康な参加者だけでなく、軽度認知機能障害の参加者よりも歩行速度が遅くなることがわかりました。興味深いことに、軽度認知機能障害の参加者はアルツハイマー病発症者より歩行速度は速いものの、健常者よりは遅いことも明らかになりました。つまり、認知機能の低下が重度な人ほど歩行速度が遅くなるということです。
出典:共同通信PRワイヤー「アルツハイマー病協会:歩行の変化は認知障害の兆候 AAIC 2012で報告」

また日本の研究チームは、高齢者における歩行速度の低下と脳の萎縮が関連することを報告しています。アルツハイマー病をはじめとする認知症において脳の萎縮を認めることがわかっているため、歩行速度の低下と認知機能の関連を客観的な画像検査を用いて明らかにしたといえます。
出典:http://ci.nii.ac.jp/naid/130005017585

歩くスピードが遅くなるのは認知症のサインになる

アメリカの研究チームは、歩くスピードが遅くなるのは認知機能低下を早期に予測できる可能性があることを2014年8月に「Neurology」誌に発表しました。

研究チームは17か国のデータをもとに、認知症および認知障害のない60歳以上の成人26802名を対象として、認知症の発症リスクと歩行障害の関連について解析しました。
26802例中、2808例において歩行障害を認め、全体の9.7%を占めることがわかりました。結果としては、歩行障害を認める場合に認知症を発症するリスクは1.9倍であることが明らかになりました。

今回の研究結果から、健常者において歩行スピードに変化があった場合に認知症の発症リスクが高いことを早期に予測できる可能性が示唆されました。歩行スピードは客観的な指標であり、病院でもすぐにできる検査なので今後臨床において参考にされることが期待されています。

ただし、歩行障害があるからといって必ず認知症が起きるとはいえないため、あくまで認知症を予測する1つの指標として捉えるべきでしょう。また、歩行障害の原因は認知症以外の病気も考えられるので、歩行速度や歩幅に変化があると感じた時には早めに病院に行くようにした方がよいかもしれません。

<参考論文・参考資料>
Neurology. 2014 Aug 19;83(8):718-26. doi: 10.1212/WNL.0000000000000717. Epub 2014 Jul 16.
Motoric cognitive risk syndrome: multicountry prevalence and dementia risk.
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25031288)