「腸内細菌」がアルツハイマー病の発症に影響する!?

工樂真澄

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「腸内フローラ(腸内細菌叢)」はメディアでも頻繁に取り上げられており、ご存知の方も多いと思います。ヒトの腸には約100種類、およそ100兆個の細菌が住んでいるといわれます。最近の研究からは、腸内細菌が不安障害や自閉症、パーキンソン病など、脳に関わる病気の発症にも関わっていると指摘されています。さらに認知症も例外ではないようで、今回は腸内細菌とアルツハイマー病の関係について調べた論文をご紹介します。

腸内細菌がアミロイドβの蓄積に関係している

スイス、ローザンヌのエコール・ポリテクニークのHarach博士らは、腸内細菌が「アミロイドβタンパク」の蓄積に関わっていることを示唆する論文を、2017年に発表しました。

アミロイドβが過剰になると、凝集して神経細胞の働きを妨げてしまいます。アルツハイマー型認知症の脳には、アミロイドβの蓄積が多く見られるのが特徴です。

アミロイドβは「アミロイドβ前駆物質」から作られます。そのときに必要になるのが「プレセニリン」というタンパク質です。実験で使われたマウスは、ヒトの「アミロイドβ前駆物質」と「プレセニリン」を合成できるように遺伝子操作されたものです。この遺伝子組み換えマウスは月日が経つごとに、脳でのアミロイドβの蓄積が観察されました。

また、この遺伝子組換えマウスと普通の野生のマウスの腸内細菌を比較したところ、細菌の種類や構成が大きく違っていることがわかりました。特に生まれてから月日が経つほど、違いが大きくなっていることがわかりました。

次に、腸内細菌がアミロイドβの合成に関わるかどうかを調べるために、細菌を全く持たない遺伝子組み換えマウスを作成しました。上記同様の遺伝子操作をしたマウス同士を掛け合わせてできた受精卵を、完全に無菌のマウスのお腹に移して育てました。

通常、お腹の中の胎児は腸内細菌を持っていませんが、出産で産道を通るときに初めて腸内細菌にふれます。無菌状態で生まれた遺伝子操作マウスと、普通に生まれた遺伝子操作マウスを比べた結果、無菌のマウスではアミロイドβの蓄積が有意に少ないことがわかりました。

また、無菌の遺伝子組換えマウスは「ネプリライシン分解酵素」と「インシュリン分解酵素」が、普通分娩のマウスより多く作られていることがわかりました。これらの酵素は、アミロイドβタンパクを壊す働きがあることが知られています。

以上の結果から、腸内細菌の構成とアミロイドβの凝集、蓄積には関係があることが示唆されました。無菌のマウスではアミロイドβを破壊する酵素が多かったことから、腸内細菌の中にこれらの酵素の働きを妨げるものが存在する可能性が示唆されました。今後は、腸内細菌の種類ごとのアミロイドβ蓄積との関係と、ヒトの腸内における役割が明らかになることが期待されます。

バランスを保って共に生きる

私たちの体には腸だけでなく口、顔や手にも様々な菌が住んでいます。その中には健康に悪影響を及ぼすものもいますが、私たちの健康を維持するのに大切な菌も多く住んでいます。もし「気持ち悪い!」と言って、全ての菌をムリヤリ取り払ってしまったとすると、私たちはたちまち病気になってしまうでしょう。また私たちが病気になれば、体に住んでいる多くの菌も生きていくことができません。こういった持ちつ持たれつの関係を「共生」といいます。

ヒトの社会でも多種多様な人が混じりあって絶妙なバランスをとっているように、腸内でも多様な細菌がバランスをとっていることで、私たちの健康は保たれているのです。

ご紹介した論文
Reduction of Abeta amyloid pathology in APPPS1 transgenic mice in the absence of gut microbiota.
T. Harach et al. Scientific Reports (2017). DOI: 10.1038/srep41802

参考サイト
厚生労働省e-ヘルスネット 腸内細菌と健康
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html