過剰な糖分がアルツハイマー病の発症をうながす可能性

工樂真澄

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認知症の中でもアルツハイマー型認知症は、生活習慣病との関わりが深いといわれます。生活習慣病とはその名の通り、食生活の乱れや運動不足などの生活習慣によってかかりやすくなる病気のことで、2型糖尿病や心臓・血管の病気などが含まれます。とくに糖尿病になると、アルツハイマー型認知症の発症リスクが2倍になるといわれます。今回は過剰な「糖分」が、アルツハイマー病の発症をまねくメカニズムを考察した論文をご紹介します。

タンパク質の「糖化」とは

過剰な糖分がアルツハイマー型認知症の発症に関わる可能性について、イギリスのBath大学のKassaar博士らは2017年にサイエンティフィック・リポーツに論文を発表しました。高血糖や糖尿病にかかるとアルツハイマー病を発症しやするなることは、今までにも報告されていましたが、そのメカニズムについては明らかになっていません。

博士らは、アルツハイマー病と診断された故人の脳のタンパク質について、「糖化」の程度を調べました。「糖化」とはタンパク質や脂質に「糖」が付くことです。体内の約半分のタンパク質は糖化されており、これらの「糖タンパク質」は生体の維持に大切な役割をしています。しかしその一方で、「糖化」によって本来のタンパク質の機能が妨げられてしまうと、様々な疾患を招くことが明らかになっています。

博士らは独自に開発したフェニルボロン酸を用いた方法によって、脳の糖化タンパク質を検出しました。アルツハイマー病の脳と、正常な人の脳の抽出物を比較した結果、アルツハイマー病の脳では「マクロファージ遊走阻止因子(MIF)」と呼ばれるタンパク質に異常が見られました。MIFはサイトカインの1つです。サイトカインは細胞から出る液性の物質で、他の細胞の分化や増殖、活性化を促します。MIFは免疫細胞の活性化や、損傷した組織の修復、インシュリンの調節、さらに炎症作用の制御など、多彩な役割を持つことが知られています。

MIFは糖タンパク質ですが、アルツハイマー病の脳では正常の脳よりも糖化が進んでいることがわかりました。またアルツハイマー病の脳から得られたMIFは、均一でないこともわかりました。MIFの糖化の原因を調べるために、合成したMIFをグルコースとともに一週間、試験管内で反応させてみたところ、著しく糖化されることがわかりました。また、糖化したMIFは酵素としての働きが著しく低下することがわかりました。

この研究から、アルツハイマー型認知症ではMIFの糖化が進み、構造が損なわれていることが示唆されました。またMIFをグルコースと反応させると糖化が起こり、MIFの酵素としての機能が著しく損なわれることがわかりました。以上のことより、脳の過剰な糖分によってMIFの糖化が進むことで機能が損なわれ、その結果アルツハイマー病の発症につながる可能性が示唆されました。

糖分の摂り過ぎはダメ、でも不足しすぎてもダメ

健康を保つうえで「糖分」は欠かせない栄養素です。糖分は重要なエネルギー源であるだけでなく、遺伝子を構成するDNAの素にもなります。ちまたでは「炭水化物ダイエット」や「糖質制限ダイエット」が流行しているようですが、過剰な糖質不足は様々な弊害を生み出します。その一方で、過剰な糖分摂取が肥満の原因になることもまた事実です。今回ご紹介したように、過剰な糖分によって糖化が進むと、アルツハイマー病の発症につながる可能性もあります。糖分は多すぎず、少なすぎず、適度に摂るように心がけたいものです。

Macrophage Migration Inhibitory Factor is subjected to glucose modification and oxidation in Alzheimer’s Disease.
Omar Kassaar et al. Scientific Reports (2017). DOI: 10.1038/srep42874

参照文献
「栄養機能化学 第3版」 朝倉書店
「ハーパー・生化学 第29版」丸善出版