2020年東京オリンピックでは「脳ドーピング」が問題に!?

nounow編集部

脳ドーピング(イメージ)
出典元:pixabay.com

脳への微流な電気刺激は脳梗塞のリハビリや鬱の改善などに効果があることが知られています。しかし昨今、研究が進みスポーツ選手のパフォーマンス向上にも役立つ可能性があることがわかってきました。「脳ドーピング」の時代が来ることは時間の問題かもしれません。

tDCSとは

電極を用いて頭皮の上から軽い直流電流を流して脳の部位を刺激することをtDCS(transcranial Direct Current Stimulation:経頭蓋直流電気刺激)といいます。これはすでに優れた結果を出している技術で、科学者たちは、脳梗塞を起こした患者のリハビリのために利用して成功を収めていますし、鬱の改善や記憶力の向上などにも成果を上げています。

2016年3月、理科学研究所が tDCSが脳を活性化する仕組みを解明したとする研究結果を発表しました。

微弱な電気刺激が脳を活性化する仕組みを解明

脳内には神経細胞(ニューロン)の他に、ニューロンをサポートする細胞(グリア細胞)があります。シナプス伝達の増強がグリア細胞の1種であるアストロサイトのカルシウム活動によって促進され得ることに注目してきた理科学研究所は、今回遺伝子改変マウスを作製し、tDCSを行なっている間のアストロサイトとニューロンの細胞内カルシウムの状態を、生きたままの動物で観測しました。その結果、tDCSを行なっている間に、ニューロンではなくアストロサイトの細胞内カルシウム濃度が、一過的に著しく上昇すること、このアストロサイトのカルシウム上昇には、神経伝達物質の1つである「ノルアドレナリン」が重要な役割を果たしていることを発見しました。

理科学研究所は本研究の結果から、tDCSにより脳内では、
①ノルアドレナリンが放出され
②ノルアドレナリンは、アストロサイトの細胞内カルシウム濃度を上昇させ
③その結果、シナプス伝達が増強されやすくなる
というモデルを提案しています。

アストロサイトが何らかの伝達物質を放出してシナプスの機能を調節していると想定され、今後このメカニズムがさらに明らかにされることが期待されるとしています。

tDCSでスキージャンプ力や持久力が向上

米国スキー&スノーボード協会(USSA)のスポーツ研究グループは、ハロー・ニューロサイエンス社(Halo Neuroscience;米国カリフォルニア州サンフランシスコ)と共同で、身体的な技能を制御する脳領域である運動野に電気刺激を与えることによって、スキージャンプの選手の成績を向上させることができるかを調査しています。

同社が2016年2月に発表したところによると、オリンピック選手を含むノルディックスキージャンプの一流選手7人を被験者とし、2週間の訓練中、4人の選手は訓練中にtDCSを受け、他の3人は偽の処置を受けました。

その結果、偽の処置を受けたグループと比較して、刺激を受けた選手たちは最終的にジャンプ力が1.7倍向上したとのことです。

ただしUSSAのハイパフォーマンス研究部長Troy Taylorはまだ研究が初期段階であることを認めていますし、研究対象が少人数であり、効果に懐疑的な声もあるようです。

また2016年3月7日に英国生理学会が開催した「優れたパフォーマンスの生物医学的基盤に関する会議(Biomedical Basis of Elite Performance 2016;英国ノッティンガム)」で発表された別の研究では、tDCSによって疲労感が低減する可能性が示唆されています。

ケント大学(英国カンタベリー)のスポーツ科学者Lex Maugerらは、脚の機能を制御する運動野領域を刺激すると、自転車の乗り手は疲れを感じずにより長い時間ペダルを踏めることを発見しました。

研究者たちは、まず12人の訓練を受けていない被験者の脳を刺激し、その後彼らに疲れ切るまでサイクリングマシンのペダルを踏んでもらいました。そして被験者たちは1分ごとに自分の努力のレベルを評価しました。

tDCSを受けた被験者は、偽の処置を受けた人たちに比べて、平均して2分間長くペダルを踏むことができ、また彼らは自分はそれほど疲れていないという評価も下していました。しかし、処置を受けたグループと対照グループの間で、心拍数あるいは筋肉の乳酸レベルの相違は見られなかったとのことです。

この結果は、脳の認識の変化が成績の改善を引き起こしたことを示唆しています。(Natureダイジェストより)

脳ドーピングの時代?

今後個別化する方法でより安全かつ効果的にtDCSが進化していけば、特定の機能を制御する脳の領域を刺激してパフォーマンスを上げようとするスポーツ選手は必ず出てくるでしょう。しかしtDCSはその利用を検出する方法がなく、脳ドーピングについてその定義、利用の可否などが議論されていくべきでしょう。2020年の東京オリンピックの頃には「脳ドーピング」が問題になっているかもしれません。

またtDCSはスポーツ以外の様々な分野でも使われるようになるでしょう。病気の治療に限らず、「能力を拡張したい」という人類の普遍的ニーズに応えるものも出てくるはずです。

我々が記憶力やクリエイティビティ、集中力を上げるため、語学学習のスピードを上げるために脳ドーピング(tDCS)を受ける時代は来るのでしょうか?

出典:Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160610
原文:Nature (2016-03-17) | doi: 10.1038/nature.2016.19534