認知症の早期発見にVRなどのICT活用

工樂真澄

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出典元:pixabay.com

認知症患者さんの数は今後さらに増えることが懸念されており、その治療法の探求が盛んに行われています。その一方、アルツハイマー型認知症などは早期に発見して治療を始めれば、かなりの抑制効果が期待できるため、ごく初期の認知症を見つけ出す方法が模索されています。
今回は、軽度認知障害をスクリーニングするために、VRなどのICTの活用を提案している論文をご紹介します。

仮想ショッピングで、軽度認知障害を見つけ出す

ギリシャのアリストテレス大学のTsolaki博士らのグループは、2015年に発表した論文で、VR(バーチャルリアリティ)を用いて、軽度認知障害を見つけ出す方法を検証しています。

博士らが検証したのは「バーチャルスーパーマーケット(VSM)」とよばれるアプリケーションで、タブレットやPC上で動かすことができます。買い物は日常行う最もありふれた行動の一つですが、記憶力や判断力、注意力や計算力など、様々な認知機能が求められます。彼らはそこに目をつけ、コンピューターの中にあるスーパーマーケットでの買い物の様子から、認知症の兆候を見つけられるのでは、と考えました。

仮想スーパーマーケットでは、まず画面の右上に買うべき物のリストが表示されます。被験者は画面を操作しながら目的の陳列棚まで移動し、そこから正しい商品を探し出します。そして指定された個数を買い物カゴに入れて、最後におつりのないようにお札と硬貨を画面から選び出し、代金を支払います。

実験に参加した55人の高齢者は、従来の認知機能検査によって、あらかじめ認知機能が測定されています。実験の結果、従来の検査で軽度認知障害と診断された人たちは、仮想スーパーマーケットでの買い物時間が長く、またリストには載っていないものを間違って買ったりする傾向がみられました。さらに代金の間違いも見られました。

結論として、仮想スーパーマーケットを用いた検査方法は87.3%の割合で、従来の認知機能検査で軽度認知障害と判断された人を探し出すことができました。この結果から、VRを用いたスクリーニング方法は、自覚症状のない早期の認知症を見つけ出す助けになることが示されました。

早期発見、早期治療がカギ

通常の認知症診断は、家族や本人への問診をもとに、認知機能検査やMRIなどの画像検査によって総合的に行われます。認知機能改善薬は早く使い始めるほど効果が高いとされますが、ごく早い段階では自覚症状がない場合も多く、定期的に検査を受けていない限り認知症の芽を見つけ出すのは困難です。「恥ずかしいから」、「自分には関係ないから」と、認知症の検査に行くことを尻込みしているうちに、進行してしまう恐れもあります。その点、VRを使った方法はゲーム感覚で家でも気軽に取り組みやすく、もし気になる結果が出た場合には、「受診してみよう」というきっかけになるかもしれません。

今回ご紹介した方法はまだ検証段階にすぎませんが、今後さらに開発が進めば、多くの人が健康な老後をおくる助けになることでしょう。

ICTでより充実した医療を受けられる時代

Tsolaki博士は認知症患者のスクリーニングだけでなく、治療にもICT(「Information and Communication Technology」の略。日本語では「情報通信技術」といい、コンピューターやネットワークなどの情報処理や通信に関わる技術や、サービス全般を指す)を導入することを提案しています。日本でも総務省がICTによる医療の基盤づくりを進めています。

ICTの発展により近い将来、体調がすぐれないのに病院の待合室で長く待たされたり、無理を押して遠い大学病院に出向いたりすることもなくなるでしょう。どんな僻地にいても、また夜間や休日であっても、ビッグデータに基づく的確な診断を受けることができ、最先端の治療を受けることも可能になるでしょう。そんな未来はすぐそこまで来ています。

Can a virtual reality cognitive training application fulfill a dual role? Using the virtual supermarket cognitive training application as a screening tool for mild cognitive impairment.
Zygouris S et al. J Alzheimers Dis. 2015;44(4):1333-47.

Our experience with informative and communication technologies (ICT) in dementia.
Tsolaki M et al. Hell J Nucl Med. 2015 Sep-Dec;18 Suppl 1:131-9.

総務省 「医療・介護・健康分野の情報化推進」
http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/iryou_kaigo_kenkou.html