近年、神経変性疾患の解明に向けた研究が世界中で進められている。中でも、認知症およびパーキンソン病の発症メカニズムや関連要因に関する大規模な調査データが次々と報告されるようになった。単なる加齢だけでなく、日々の食生活や生活環境、さらには性格的特徴がこれらの疾患にどう影響するのか、最新の研究結果からその実態が明らかになりつつある。
認知症リスクを左右するオメガ6脂肪酸の「質」
英国のバイオバンクに登録された27万3795人のデータを対象とした大規模なコホート研究により、血漿中のリノール酸(食事から摂取される最も一般的なオメガ6脂肪酸)の濃度が高いほど、認知症の発症リスクが低下することが判明した。追跡期間の中央値は15.06年に及び、その間に5799件の認知症発症が確認されている。
分析の結果、リノール酸の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループと比較して認知症リスクが18%低いことが明らかになった。一方で、リノール酸以外のオメガ6系多価不飽和脂肪酸(n-6 PUFA)の摂取量が最も多いグループでは、逆にリスクが21%上昇するという対照的な結果が出ている。
米国・脂肪酸研究所のアレックス・サラ=ヴィラ博士は、オメガ6を一括りにして議論することの危険性を指摘している。リノール酸が主に植物由来であるのに対し、リスク上昇と関連付けられた非リノール酸系の脂肪酸は、赤身肉や内臓肉、卵、鶏肉などの動物性食品により多く含まれるためである。
また、血液中のオメガ6脂肪酸全体の75%をリノール酸が占めており、残りの25%のうち大部分(77%)がアラキドン酸であるとされる。現在のバイオバンクの測定手法ではアラキドン酸レベルの正確な追跡には限界があるものの、特定の脂肪酸の血中濃度を測定することで、長期的な認知機能の低下を予測できる可能性が示唆されている。なお、過去に21万人以上の成人を対象に行われた別の研究では、血中のオメガ3脂肪酸濃度が高いほど若年性認知症の発症リスクが35〜40%低下し、DHA単独よりもオメガ3全般を摂取する方が効果的であることも報告されている。
パーキンソン病の発症に関わる環境因子と生活習慣
認知症と同様に進行性の神経変性疾患であるパーキンソン病についても、長年の研究によって具体的な発症リスクがデータとして蓄積されている。中脳の黒質ドパミン神経細胞に「αシヌクレイン」と呼ばれる異常なタンパク質(レビー小体)が蓄積し、神経細胞が減少することで引き起こされるこの疾患は、安静時の振戦(丸薬を丸めるような手足の震え)や動作緩慢、筋固縮といった症状を特徴とする。
これまでの複数の研究から、特定の生活パターンがパーキンソン病のリスクを変動させることがわかっている。例えば、パラコートや有機リン化合物といった農薬への長期的な曝露は、主に農業従事者などにおいて発症リスクを増加させる要因の一つである。また、睡眠障害との強い関連も指摘されており、3ヶ月以上続く慢性的な不眠症を抱える人は、そうでない人に比べて発症リスクが37%高まるというデータがある。
さらに、社会的な要因も無視できない。友人や家族との交流が全くない、あるいは月に1回程度しか会わないような社会的孤立状態にある人は、定期的な交流を持つ人に比べて有意にリスクが増加することが確認されている。運動量に関しても明確なデータが存在し、毎日1時間、時速5kmでの歩行を継続することでパーキンソン病のリスクが50%減少するという研究結果が報告されている。反対に、アメリカンフットボールのように頭部へ繰り返し衝撃を受けるスポーツの経験は、リスクを上昇させる可能性があるとされている。
統計から見るパーキンソン病の人口動態と遺伝的背景
統計的に見ると、パーキンソン病は60歳前後での発症が多く、加齢とともにそのリスクは上昇する。世界的な傾向としては男性の発症率が高いものの、日本においては人種や遺伝的背景の違いからか女性の患者数が多いという特異なデータも存在する。
発症原因の約10%は遺伝的な要因(家族性パーキンソン病)によるものであり、その場合は通常よりも若年で発症する傾向が強い。特定の遺伝子突然変異がリスクを高めるメカニズムの解明も進んでいる。
また興味深いことに、性格的な特徴と発症リスクとの相関も研究対象となっている。自身の内面を重視する内向的な性格や、真面目で柔軟性に欠ける強迫的な傾向、あるいは新しい物事への興味が薄いといった特性を持つ人は、統計上パーキンソン病を発症しやすい傾向にあることが示唆されている。