現在、世界中で約6,000万人が認知症を抱えて生活しており、その数は2050年までに倍増すると予測されている。アルツハイマー型を中心とする認知症は、記憶力や思考力、判断力といった脳の神経細胞の働きが徐々に低下していく病気だ。しかし、その進行スピードは患者ごとに大きく異なる。急速に状態が悪化する人がいる一方で、何年も安定した状態を保つ人も少なくない。平均的な患者データに基づく従来のガイドラインでは、このような個別の変化を十分に捉えきれないという課題があった。こうした中、日常的な臨床データを用いて認知症の進行を個別に予測する、画期的な機械学習モデルの研究が注目を集めている。

機械学習による認知症進行の予測モデル 学術誌「Communications Medicine」に掲載された最新の研究において、アルツハイマー病(AD)および軽度認知障害(MCI)の患者を対象とした予測モデルが開発された。イギリスのMinder Health Management Studyから得られた臨床データや病歴を活用し、AIは12ヶ月後のMini-Mental State Examination(MMSE)およびBristol Activities of Daily Living(BADL)のスコア変化を高精度で予測することに成功したのである。

特筆すべき点は、単なる初期の総合スコアや合併症の有無が進行速度の決定的な要因ではなかったことだ。むしろ、観念運動失行、発話、単語認識といった特定の認知機能や、食事の準備、金銭管理、着替えといった日常動作における自立度が、将来の進行を強く予測する指標となった。自立機能においてすでに困難を抱えている項目が多いほど、その後の1年間で機能低下が進みやすい。また、年齢も機能低下を早める重要な要因であることが分かっている。研究チームは、SHAP(Shapley Additive Explanations)と呼ばれる手法を用い、これらの各要因が進行にどう影響するかを明確に示している。

認知症の進行段階ごとの特徴 このような予測技術の発展を実際の医療に活かすためには、認知症がどのような段階を経て進行するのかを把握しておく必要がある。 前兆期にあたる軽度認知障害(MCI)の段階では、不安や抑うつ、軽い物忘れなどが見られるものの、日常生活に大きな支障は生じない。しかし、初期症状へと移行すると、記憶障害や失見当識(時間や場所の認識低下)がはっきりと現れ、周囲のサポートが必要になり始める。 中期に差し掛かると、精神症状や行動の異常がより顕著になる。幻覚や妄想、徘徊に加え、服を着るなどの日常動作ができなくなる「失行」や、目の前の物が何か分からなくなる「失認」が頻発する。

そして末期(重度)に至ると、人格の変化が起こり、無言・無動状態に陥ることが多い。歩行や座るといった基本的な身体能力が失われ、排泄のコントロールも困難になり、常に誰かの介助が必要な状態となる。

末期における深刻な身体的変化 認知症が末期まで進行すると、単に認知機能が低下するにとどまらず、身体的にも極めて深刻な症状を引き起こしやすくなる。 第一に、嚥下(えんげ)機能の低下による食事の困難が挙げられる。飲み込む力が弱まることで誤嚥性肺炎のリスクが高まるため、流動食やゲル状の食品への変更、老年内科などの専門科での栄養相談が不可欠となる。 第二に、歩行や寝返りといった基本動作の喪失だ。これにより、床ずれによる感染症や、転倒に伴う頭蓋骨骨折などの重大な怪我を引き起こす危険性が増す。転倒しにくい靴の着用や定期的な体位変換、専用マットレスの活用が推奨される。 さらに、意識障害や感染症のリスクにも細心の注意を払わなければならない。患者は自身の体調不良を言葉で伝えられない。そのため、もともと抱えている持病(糖尿病など)が悪化したり、重度の感染症にかかったりして初めて、意識の混濁という形で周囲が異変に気づくケースがある。口腔ケアの徹底やこまめな検温を行い、発熱などの兆候があれば早急に医療機関を受診する必要がある。 また、食事を摂っているにもかかわらず急激に痩せていく場合は、がんなどの隠れた重篤な疾患が進行している可能性も考慮しなければならない。認知症患者は定期的な検診を受けるのが難しいため、異変を感じたらすぐにかかりつけ医に相談することが重要である。

進行に合わせた適切な介護アプローチ 認知症高齢者の日常生活における自立度は、ほぼ自立している状態(ランクI・II)から、常に介護を必要とする状態(ランクIII・IV)、さらには専門医療が必要な状態(ランクM)へと分類される。ランクIIまでは服薬や金銭管理にミスが出る程度だが、ランクIII以降になると排泄や着替えが困難になり、本格的な介護が必要となる。 こうした状況における具体的な対策として、まずは安全な環境の確保が挙げられる。自宅内での転倒や事故を防ぐため、手すりの設置や滑りにくい床材への変更に加え、包丁やはさみなどの危険物を手の届かない場所に保管する工夫が求められる。 また、食事介助においても細やかな配慮が必要だ。食べたことを忘れて過食してしまうのを防ぐため、決まった時間に食事を提供し、一回の量を小分けにするなどの対策が有効である。家族だけで抱え込まず、介護のプロフェッショナルによるサポートを適切に利用していくことが、患者と家族双方の生活を守るための大きな助けとなるだろう。