寝不足だと、脳ではなにが起こるのか

工樂真澄

寝不足(イメージ)
出典元:pixabay.com

徹夜明けや寝不足で集中力や判断力が鈍くなって、思わぬ失敗をしたことはありませんか?睡眠と認知機能は密接に関わっています。今回は、国際科学雑誌「Science」に最近掲載された、睡眠不足の脳の解析結果についてご紹介します。

睡眠不足の脳では何が起こっているのか

この研究を行ったのは、ベルギーのリエージュ大学のムトー博士らのグループです。

実験には33人の健康な若者に協力してもらい、まず42時間、寝ずに過ごしてもらいました。
その間は脳波の測定と、計13回のN-バックテストなどの認知力測定を行います。その後、寝不足を回復するために十分な睡眠をとります。

被験者には辛そうな実験ですが、この研究を通して、睡眠不足の脳の各領域の働きが明らかにされました。

睡眠をうながす二つのリズム

睡眠は体内の二つの「リズム」によってつくられています。

一つは「サーカディアンリズム(概日リズムとも)」です。サーカディアンリズムは、地球の自転に合わせるように約24時間で周期する、ほとんど全ての生物に組み込まれたリズムです。体内の多くの生理活動がこのリズムにそって動いており、たとえ昼夜がわからないような環境でも、ほぼ規則正しくリズムを刻みます。

もう一つのリズムは、起きていることで溜まってくる「疲れ」を感知して、体が休息を欲する「睡眠欲求」とよばれるリズムです。たとえば睡眠不足の日が続いたりすると、普段は眠くならないような時間でも熟睡できたりします。これは「睡眠負債」が溜まって、「睡眠欲求」が高まった結果です。睡眠欲求は起きている時間の長さに従って高まっていき、眠ることで回復します。

規則正しい健康的な生活をしていれば、二つのリズムは同期して約24時間で周期しています。しかし外国旅行で時差ボケを起こしたり、徹夜が続いたりすると、二つのリズムがずれて体調にも悪影響を及ぼします。

大脳皮質は睡眠不足の影響を受けやすい

今回の実験では、42時間の不眠をすることで人工的に時差ボケを起こし、その間の脳の各領域の変化をfMRIで観察しました。

結果を大まかにまとめると、脳の中心部にある「大脳辺縁系」とよばれる部分や中脳、小脳、さらに間脳の「視床(ししょう)」は寝不足であっても、サーカディアンリズムに従って動いていることがわかりました。そのため、これらの部位は比較的寝不足の影響を受けにくいと考えられます。
これに対し「大脳皮質」といわれる部分は、睡眠欲求リズムに従って動いていることがわかりました。そのため寝不足になるほど、働きが鈍る傾向がありました。

大脳、とくに大脳皮質は人間の認知能力に大きく関わっているところです。考えたり、注意を払ったり、また物事の判断をしたりするのはすべて大脳皮質です。今回の実験から、寝不足になると、これらの認知機能をつかさどる領域がとくに影響を受けやすいことが明らかになりました。

睡眠不足で起こること

昨今では睡眠への関心が高まり、テレビやネットなどのメディアでも盛んに質の良い睡眠の重要性が説かれています。睡眠不足による生活習慣病の増加や居眠り運転、作業中の事故など、その経済的損失は無視できません。

また子どもの寝不足は学業への影響も大きく、社会的問題になりつつあります。
長い夏休みが終わって通常モードに戻すこの時期。子育て中の親御さんは子どもさんの睡眠を気にするだけでなく、ご自身の睡眠も見直してみてはどうでしょう。

Local modulation of human brain responses by circadian rhythmicity and sleep debt.
Muto V et al. Science. 2016 Aug 12;353(6300):687-90.