ApoE遺伝子と睡眠の質、認知症発症との関係

工樂真澄

遺伝子キット検査
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認知症の発症リスクが高くなる遺伝子が「アポリポタンパクE (ApoE)」です。アポリポタンパクEの遺伝子にはε2、ε3、ε4といった種類がありますが、アルツハイマーの発症リスクと相関が高いのは「ε4」型です。ヒトは二対一組の相同遺伝子を持っており相同遺伝子のどちらもε4だと、発症リスクはかなり高いと言われます。

ApoEと睡眠の関係

ApoE遺伝子は認知症の発症リスクだけではなく、「睡眠の質」と深く関係すると指摘されています。

2013年、カナダのトロント大学のLim博士らは、ApoEと睡眠、認知症の関係について調査を行い、JAMA Neurologyに論文を発表しました。研究に協力したのは平均年齢81.7歳の高齢者698人です。まず遺伝子検査により、それぞれの人がどの種類のApoE遺伝子を持っているかを調べました。

さらに「アクチグラフ」とよばれる、ウェラブルの身体活動量を測ることができる装置を10日間付けて、「睡眠の質」を測定しました。その後、6年に渡って被験者の追跡調査を行いましたが、その間に亡くなられた201人の方々については、生前の意思に従って脳の状態を調べました。

睡眠の質によって発症リスクは変わる

アルツハイマー型認知症では、「アミロイドβ」と呼ばれるタンパク質が増えすぎて、脳の神経細胞に悪影響を及ぼすことがわかっています。アミロイドβが繊維状に蓄積した「老人班」が大量にできると、周りの神経細胞を壊してしまいます。さらに、神経細胞の中には「タウタンパク」という物質が増えて、「神経原線維変化」が起こるのが特徴です。この変化によって、神経細胞が壊されることが知られています。 

亡くなられた201人の方々について調査した結果、ApoE遺伝子がε4型だった人は、そうでない人よりもアミロイドβ、および神経原線維変化が多く観察されました。また、亡くなる1年半ほど前からの認知機能が、ε4型だった人のほうが、そうでない人よりも低かったことがわかりました。

興味深いのは、「睡眠の質」によってε4型の人々を分類した場合の結果です。全体的に見ればε4型を持つ人は認知症発症リスクが高いのですが、その中でも、よく眠れていた人たちのほうが、眠れていなかった人たちよりも、アミロイドβが少なく、認知機能が高かったことがわかりました。特に、ε4型でよく眠れていた人たちの「神経原線維変化」は、ε4型をもたない人たちと同程度しかないことがわかりました。

以上の結果から、ApoE遺伝子の「ε4」型は、アルツハイマー型認知症の発症リスクと相関があるものの、「睡眠の質」によって発症リスクが減ることがわかりました。

遺伝と発症リスク

今回ご紹介した研究では、「ε4」型のほうが睡眠の質が悪くなるという結果は得られませんでしたが、最近発表された論文によれば、「ε4」型をもつ人のほうが、睡眠の質が低いという結果が得られたそうです。睡眠は、昼間の脳の活動中にできた毒性を排除する役割があるとされます。睡眠が十分にとれないことで、排除しきれなかった毒性が蓄積して、長い期間をかけて認知症発症にいたるのではないかとも考えられます。

ApoE遺伝子の「ε4」型を1つ以上もつ日本人は、約15%だそうですが、実際はこの型をもっていても、認知症を発症しない方が多くおられます。ちまたでは遺伝子検査が流行っていますが、検査結果はその後の生活習慣を見直す参考にはなりますが、病気を発症するかどうかを断定することはできません。今後、さらに研究が進めば、ApoE遺伝子があっても睡眠の質を高めることで、認知症予防ができるようになると期待されます。

Modification of the relationship of the apolipoprotein E ε4 allele to the risk of Alzheimer disease and neurofibrillary tangle density by sleep.
Lim AS et al. JAMA Neurol. 2013 Dec;70(12):1544-51.

Evidence of association between sleep quality and APOE ε4 in healthy older adults: A pilot study.
Drogos LL et al. Neurology. 2016 Oct 25;87(17):1836-1842.