謎だらけの睡眠メカニズム解明のカギ!日本人研究者が見つけた二つの遺伝子とは?

工樂真澄

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出典元:pixabay.com

毎晩のことなのに、まだまだ謎の多い「睡眠」。なぜ眠らなくてはいけないのか、なぜ眠くなるのかなど、考えれば考えるほど不思議なことばかりです。今回は、最近見つかった、睡眠の謎を解くカギとなる分子について、ご紹介します。

同定された二つの遺伝子

2016年、筑波大学、国際統合睡眠医科学研究機構の柳沢正史機構長らは、睡眠に関わる2つの分子を同定し、Natureに発表しました。睡眠は長年、多くの研究者を魅了して止まないテーマの一つです。しかしその正体は複雑で、どのようなタンパク質によって睡眠がコントロールされているのか、またはどのような遺伝子に異常があると眠りが妨げられるのかといった分子メカニズムは、ほとんど明らかになっていませんでした。

柳沢博士らは「フォワードジェネティクス」という手法を用い、人為的にマウスの遺伝子に変異を導入しました。この方法はランダムで、どの遺伝子に変異が入っても不思議ではありません。博士らはその中でもとくに、睡眠に障害を示すマウスを探し出し、どの遺伝子が変異を起こしているのかを調べました。その結果見つかったのが「Sik3」 と「Nalcn」という2つの遺伝子です。

Sik3に変異を持つマウスの家系は、正常な遺伝子を持つマウスに比べて睡眠時間が長く、起きている時間が極端に短いのが特徴です。解析の結果、この遺伝子からできるタンパク質「SIK3」は「リン酸化」の働きをもつことがわかりました。タンパク質がリン酸化されると構造が変化します。すると、それが引き金になって、次々と生体の働きが引き起こされます。SIK3のリン酸化作用によって、睡眠に関わる他の分子の活動が促されたり、または抑制されたりすることで、睡眠―覚醒のコントロールが行われているのではないかと考えられます。

また、睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があることが知られていますが、Nalcnに変異を持つマウスの家系では、レム睡眠が極端に減ります。この遺伝子は、レム睡眠とノンレム睡眠の切り替えに関わるタンパク質を作り出すのではないかと、考えられています。

眠る生物が共通に持つ遺伝子

興味深いのはこれらの遺伝子に相当する遺伝子が、他の生物にも存在することです。Sik3とよく似た遺伝子は、ヒトや魚などの脊椎動物だけでなく、ハエやホヤなどの無脊椎動物からも見つかりました。しかしヒドラや酵母、またはシロイヌナズナという植物からは見つかりませんでした。

ハエについてはさらに解析が進められ、Sik3に相当する遺伝子が、やはりハエでも睡眠に関わっていることが明らかになりました。今回の結果から、広範囲な生物種において、似たような分子メカニズムで睡眠が制御されている可能性が示されました。

睡眠障害の治療に向けて

今回の論文の著者の一人である柳沢博士は、今では有名になった「オレキシン」という物質の発見者です。オレキシンは発見当初、食欲に関係する物質と考えられていました。その後、オレキシンは「起きている」状態を保つ働きがあることがわかってきました。現在では、オレキシンの働きを妨げる薬が、不眠症の治療薬として開発され、睡眠障害に悩む患者さんの役に立っています。

日々の健康や、仕事や勉学のパフォーマンスを上げるためには、「質の良い睡眠」は欠かせません。今回の研究で明らかになった遺伝子を突破口にして、睡眠の分子メカニズムは、より詳細になることでしょう。研究の成果が、睡眠障害のあらたな治療法の確立や、お薬の開発につながることが待ち望まれます。

Forward-genetics analysis of sleep in randomly mutagenized mice.
Funato H et al.
Nature. 2016 Nov 2;539(7629):378-383.