「睡眠」は脳のお掃除時間!寝ている間にシナプスは「選別」されている。

工樂真澄

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出典元:pixabay.com

睡眠に似た生理活動は魚類や爬虫類などにもあり、「眠り」が多くの動物に欠かせないことは明らかですが、とくにヒトでは脳の機能維持に重要だと考えられています。今回は脳のダイナミックな変化から、睡眠の役割について考察した研究をご紹介します。

脳は昼夜問わず変化している!

アメリカのウィスコンシン・マジソン大学の Vivo博士らは、睡眠中に起こる脳の変化について調べた論文を、2017年に「Science」で発表しました。

博士らが用いた「シリアルブロックフェイス走査電子顕微鏡法(SBEM)」は、観察したいものを三次元で再現する手法です。生体から切り出した試料を非常に薄い切片にして顕微鏡画像を撮影したあと、再び順番通りに重ね合わせることで、調べたい部分や構造を三次元的に再構築します。非常に手間のかかる方法ですが、ナノメートルレベルの微細な観察を行うことができます。

今回調べたのは、睡眠-覚醒時間の異なる3種類のマウスの脳です。1つ目は正常な睡眠覚醒リズムをもつマウスの脳で、起きている時間帯に取り出したものです。2つ目は強制的に長時間起こしておいたマウスの脳です。3つ目は1日のほとんどを寝て過ごしていたマウスの脳です。それぞれのグループのマウスの脳から「一次運動野」と「一次体性感覚野」を切り出し、1つ目と2つ目のグループの脳を「起きている脳」、3つ目のグループを「睡眠後の脳」として比較しました。

睡眠中の整頓具合はシナプスのサイズによって異なる

ヒトの脳にある神経細胞の数は160億個ともいわれます。典型的な神経細胞は枝をいくつも伸ばし、他の細胞と情報の受け渡しを行います。細胞同士が接する箇所を「シナプス」とよび、シナプスの大きさや数は、記憶や学習の「強固さ」に比例しているといわれます。

神経細胞の枝には「スパイン」とよばれる無数の「トゲ」状の構造があり、このトゲもシナプスを作って情報を受け取ることが知られています。この論文では、7000近い「スパイン」の三次元構築を行い、スパインの作るシナプスを詳細に解析しました。

解析の結果、「睡眠後の脳」は「起きている脳」より、全体で18%ほどシナプスの占める面積が「減る」ことがわかりました。さらにシナプスの大きさによる違いを調べたところ、中くらいから小さめのシナプスは睡眠後の減少が著しいのに対し、大きなシナプスは睡眠後であっても変化が少ないことがわかりました。

以上の結果より、睡眠中には脳のネットワークの整理が行われ、その結果としてシナプスの占める面積が、起きているときよりも減ることがわかりました。ただし、「大きなシナプス」は睡眠中でも削除されにくいことが明らかになりました。この結果から「大きなシナプス」ほど、より重要な情報の受け渡しに関わっていると推察されます。

快適に明日を迎えるための準備時間

起きている間、私たちは常に多くの刺激にさらされています。重要であろうがなかろうが目にしたもの、耳に入ってきたものすべてが脳にインプットされて、必要ならばシナプスを介して他の神経細胞に情報を伝えようとします。

いってみれば起きている間の脳は、「とりあえず使えればいいから」とゴチャゴチャに配線されただけの、引っ越し直後のオフィスのようなものでしょうか。オフィスでは誰かが重い腰を上げて、絡み合った配線の整頓を行わなければなりません。

しかし脳では睡眠中、自動的にネットワークの「整理整頓」が行われます。二度と思い出さなくてもいいような情報に関する配線は取り払われ、その反対に、印象に強く残った出来事や、覚えておく必要あるような事柄に関するネットワークは残されるような仕組みがあると考えられます。

そのため、睡眠不足の整頓のされていない脳では、新しい情報のインプットが十分に行えないのでしょう。このすばらしい「仕組み」を知ると、毎晩の睡眠がとても大事なものに思えてくるのではないでしょうか。

Ultrastructural evidence for synaptic scaling across the wake/sleep cycle.
de Vivo L et al. Science. 2017 Feb 3;355(6324):507-510.