睡眠中のピンクノイズで記憶力が改善

工樂真澄

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出典元:pixabay.com

記憶と睡眠は密接な関係にあります。寝ることで記憶が固定されるメカニズムの研究が進む一方、睡眠中に刺激を与えることで、記憶力を改善する研究が行われています。今回は「音刺激」と記憶に関する研究を、ご紹介します。

睡眠が浅くなるから記憶力も低下する

2017年、アメリカのPapalambros博士らのグループは、睡眠中の音刺激が高齢者の記憶力に与える影響について調べ、発表しました。睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、ノンレム睡眠のほうが、脳がより深く休んでいると考えられています。特に、寝始めた頃に現れるノンレム睡眠期には、さらに脳の活動が低下する「徐波睡眠」期があります。年を取るにつれて徐波睡眠は短くなり、80歳代では全くなくなるといわれます。多くの人が年をとるにつれて自然に記憶力が低下することから、徐波睡眠と記憶は無関係ではないと考えられています。

昨今、睡眠中に刺激を与えることで、睡眠の質をコントロールする研究が進んでいます。若者を対象にした実験では、ある刺激を睡眠中に与えると徐波睡眠が長くなり、記憶が強固になることが知られています。今回の実験には、60歳以上の健常者13人(平均年齢75歳)が参加しました。それぞれ二回ずつ睡眠中に器具をつけてもらいます。二回のうちどちらかで、徐波睡眠にあわせて脳に音刺激を与えます。もう一回は対照実験で、何も刺激は与えません。どちらが対照実験かは被験者にはわかりません。それぞれ睡眠に入る前と起床後に、記憶テストを行ってもらい、音刺激の効果を調べました。

実験の結果、徐波睡眠期に音刺激を与えた回のほうが、与えなかった回よりも徐波睡眠が長くなっていました。また記憶テストの成績も向上することがわかりました。この結果より、音刺激によって、徐波睡眠が少なくなる傾向のある高齢者でも、徐波睡眠が長くなることがわかりました。さらにより強固になる記憶のタイプがあることがわかりました。これは徐波睡眠が長くなったことで、処理される記憶が増えたためだと推測されます。

ピンクノイズ

今回睡眠中に被験者に聞かせたのは、「ピンクノイズ」とよばれる種類の「雑音」です。「ホワイトノイズ」という言葉をご存じの方もおられるでしょう。ホワイトノイズとは、どの周波数でも同じ強度を示す雑音を指します。ピンクノイズも雑音の分類の一つで、ホワイトノイズが「しゃー」と聞こえるのに対して、ピンクノイズは「ざー」と表現されたりします。ホワイトやピンクといった表現は比喩的なものであり、実際の音に色があるわけではありません。

今回ご紹介した論文の著者らは、高齢者の記憶力の維持のために、ピンクノイズを使った器具の実用化も焦点にいれているようです。今回の研究は被験者が少数であり、今後はさらに大規模なレベルでの検証が必要ですが、もしこの方法が実用化されれば、記憶力改善もさることながら、年をとることによる不眠で悩む人にも救世主になるかもしれません。

Acoustic Enhancement of Sleep Slow Oscillations and Concomitant Memory Improvement in Older Adults.
Papalambros NA, et al.Front Hum Neurosci. 2017 Mar 8;11:109.