眠りの深さと学習効果との関係

工樂真澄

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梅雨に入り、蒸し暑さで寝苦しいことも多い季節がやってきました。睡眠時間は変わらなくても、眠りが浅いと翌日なんだか調子が出ないのは、どなたでも経験済みでしょう。今回は眠りの深さと学習について調べた論文をご紹介します。

学習効果を左右する徐波睡眠

眠りには種類があり、その役目もそれぞれ異なると考えられています。一晩のうちに「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」が繰り返され、レム睡眠よりもノンレム睡眠のほうが、脳がより深く休んでいる状態と考えられています。とくに、学習効果を左右すると考えられているのが「徐波睡眠」です。「徐波睡眠」は睡眠に入って最初におとずれるノンレム睡眠期に現れ、脳の活動が著しく低下していることがわかっています。

2017年、スイスのチューリッヒ工科大学のFattinger博士らのグループは、人為的に徐波睡眠を妨げて、学習効果にどのような影響があるかを調べました。実験に参加したのは平均年齢21歳の13人です。実験は2回に分けて行われました。最初のセッションでは、睡眠中の徐波睡眠期に聴覚刺激を与えて、翌日の学習効果を調べました。2度目のセッションでは、刺激を与えないで学習効果を調べ、1回目のセッションの結果と比較しました。学習効果は、単純な指の動きを使った学習によって調べました。まず、「人差し指から小指まで」を順に「1,2,3,4」の番号で名づけることにします。画面に1から4までの数字がランダムに現れるので、その番号の指を動かしてもらいます。いかに速く、また間違えずに動かせるかを測定します。1回の測定は1分間で、これを12回行ってもらい学習の程度を調べました。

実験の結果、徐波睡眠期に刺激を与えると、翌日の学習効果が著しく劣ることがわかりました。刺激を与えなかった場合、翌日の学習では回数を追うごとに成績が向上しましたが、睡眠中に刺激を与えると、学習を繰り返しても一定以上の成績にはいたりませんでした。以上の結果から、学習効果と徐波睡眠には関係があり、徐波睡眠が乱れると翌日の学習の効果が減ることがわかりました。また今回の実験では、利き手を動かす神経をつかさどる大脳の領域に、ピンポイントで聴覚刺激を与えるようにしてあります。対照実験として他の大脳領域に刺激を与えましたが、学習効果への影響は見られませんでした。そのため学習に影響のある特定の脳領域があることも示唆されました。

徐波睡眠中に何が起こっているのか

睡眠中は外からの刺激をシャットアウトして、脳を休めています。しかし、単に脳が活動していないわけではなく、日中に作られた神経同士の繋がりを「交通整理」していると考えられています。この整理のおかげで必要な情報は記憶され、必要でない情報は削除されるわけです。今回の実験から、この「交通整理」が徐波睡眠期に行われていることが示唆されました。もし徐波睡眠がないと、あらたな情報を処理する余裕がないまま翌日を迎えるため、学習の効果が低下すると考えられます。また、徐波睡眠は年を経るごとに減っていくことが知られています。そのため年をとった人ほど眠ることを大切に考えて、毎晩、積極的に質の良い睡眠がとれる工夫をしたいものです。

ご紹介した論文
Deep sleep maintains learning efficiency of the human brain.
Fattinger S et al.Nat Commun. 2017 May 22;8:15405.