たった一晩の寝不足でもアミロイドβは増える

工樂真澄

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若い頃は夜通し起きていても平気だったという方でも、年を経るごとに睡眠の大切さを実感されるのではないでしょうか。今回は、健康な人でもたった一晩の寝不足で、アミロイドβが増えることを示した論文をご紹介します。

徐波睡眠とアミロイドβの関係

アメリカ、ワシントン大学のJu博士らのグループは、睡眠とアルツハイマー病との関連を調べた研究を行い、2017年に発表しました。アルツハイマー病の患者さんの脳では、「アミロイドβ」というタンパク質が多く結合したものが見られます。アミロイドβは健康な人の脳でも作られますが、産生と除去のバランスが崩れ過剰になると蓄積してしまい、結果的に神経細胞を破壊する原因になります。これは、アルツハイマー病で表れる記憶障害などの症状と無関係ではないと考えられています。

実験には35歳から65歳までの健康な17人が協力しました。まず、測定用のリストバンドをつけて生活してもらい、それぞれの生活リズムや睡眠リズムを調べました。次に、研究所に準備された心地よい寝室で、脳波を測る装置を着けて一晩寝てもらいました。1回目の脳波測定時はぐっすり眠ってもらいましたが、一か月後に行われた2回目の測定では、睡眠中にブザー音が鳴って、睡眠を妨げるような仕掛けがしてありました。妨げるタイミングは「徐波睡眠期」です。寝入ってすぐの頃に振幅が高くて、低周波の脳波が現れるのが徐波睡眠期で、脳の活動を弱めて深く眠っている時間だと考えられています。

実験の結果、徐波睡眠を妨げられた翌朝は、どの被験者も疲労感があり、またリフレッシュした気がしないと答えました。睡眠時間そのものは通常と同じ程度だった人も、同様に感じました。さらに翌朝、髄液を採ってアミロイドβの濃度を測定しました。ゆっくり眠った翌朝と、睡眠を妨害された日の翌朝のアミロイドβの濃度を各人で比較したところ、睡眠を邪魔された翌朝のほうが、アミロイドβが増えていることがわかりました。特に徐波睡眠が妨げられた程度が大きければ大きいほど、アミロイドβは増える傾向がありました。以上の結果から、たった一晩、睡眠が乱れただけでも、アミロイドβの蓄積は起こりやすくなることがわかりました。

若い頃の睡眠不足でアミロイドβが蓄積する可能性

今回の実験は一晩の睡眠妨害で起こるアミロイドβ濃度の変化を調べましたが、これが2日、また1週間と続くうちに、アミロイドβが蓄積する可能性もあると考えられます。認知症は高齢になってから発症する例が多いですが、認知症の素因は発症する10年も前から表れはじめるといいます。現在働き盛りの40代、50代で、毎晩寝る時間を惜しんで仕事に精を出している方も多いと思いますが、慢性的な寝不足による弊害は何年も経ってから、認知機能に表れる可能性があります。長く健康で働くためにも、ぜひ毎晩の睡眠をおろそかにしないようにしてほしいものです。

ご紹介した論文
Slow wave sleep disruption increases cerebrospinal fluid amyloid-β levels.
Yo-El S. Ju, et al. Brain. Published online July 10 2017 doi:10.1093/brain/awx148