瞑想による「物忘れ」への効果を調べた研究

工樂真澄

woman-2795589_1920

「年をとって忘れっぽくなった」とは、誰でも感じることではないでしょうか。「物忘れ」や「忘れっぽい」など、記憶力が衰えたことを自覚している状態を「自覚的記憶障害」と呼びます。これは軽度認知障害というほどではないものの、脳になんらかの変化が起こっている可能性があり、将来的に記憶障害につながるともいわれます。今回は「瞑想」と「音楽」による、自覚的記憶障害への効果を調べた論文をご紹介します。

「物忘れ」を自覚している「自覚的記憶障害」

認知症の前段階として、「軽度認知障害」という状態を経ることがあります。「自覚的記憶障害」とは軽度認知障害ほどの症状ではないものの、「物忘れ」や「忘れっぽい」などを自分で自覚しているような状態です。いずれ認知症へ移行するリスクが高くなるとも言われますが、その真偽ははっきりしていません。

アメリカのウェストバージニア大学のInnes博士らのグループは、自覚的記憶障害の方を対象に「瞑想」と「音楽」の効果を調べ、2016年に発表しました。認知症予防には、食生活の改善や定期的な運動、さらにストレスの軽減が効果的だとされています。ストレスを効果的に減らすための方法はいくつかありますが、「瞑想」もその一つです。実験の参加者は、最近物忘れが激しいと感じている50歳以上の方60人で、一般から募集されました。参加者をランダムに2つのグループに分け、一つ目のグループは瞑想レッスンを、もう一方のグループは音楽レッスンを行いました。最初のレッスンでインストラクターから説明があり、翌日からは自宅でCDを利用して12分間のレッスンを毎日、12週間行いました。

瞑想グループが行ったのは「キルタン・クリヤー瞑想」です。これは「サタナマ瞑想」とも呼ばれ、SaTaNaMaというマントラを繰り返し唱えるのが特徴です。音楽グループの課題は、モーツァルトやバッハなどのクラシックが含まれたCDから、毎日好きな曲を選んで聞くというものです。

レッスン期間に入る前と12週間のレッスン期間後、そしてレッスン期間が終わってから3か月後に、「記憶力測定」と「睡眠や気分に関する調査」を行い、結果を比較しました。どちらのグループも著しい記憶力の改善は見られませんでしたが、「物忘れ」などの自覚症状が減ることがわかりました。また、どちらのグループでも睡眠の質(長さや深さ)が上がっていることがわかりました。さらに、ストレスが減り、不安感や気分が落ち込むことが減ったと感じていることもわかりました。また、睡眠やストレスは瞑想グループのほうが、音楽グループよりも、改善の程度が大きいこともわかりました。興味深いことに、気分や不安感、ストレスが改善されている人ほど、「物忘れ」が減ったと感じる度合いが大きいことがわかりました。以上の結果は、レッスン期間終了から3カ月経った後も持続していました。

今回の研究から、物忘れの自覚症状がある方が音楽や瞑想を毎日取り入れることで、不安やストレスが減ったり、睡眠の質が上がったりすることがわかりました。また、「物忘れ」を感じることが減ることがわかりました。

瞑想で得られる効果とは

ご紹介した論文は小規模な試験的研究の結果であり、瞑想の記憶力の改善効果についてはさらなる研究が期待されます。瞑想にはいろいろな種類があります。現在では宗教性や修行としての側面とは別に、瞑想による健康への効果が科学的に研究されています。瞑想によって、脳の血流や酸素が増え、海馬や前頭葉など、気分や記憶に関わる領域に良い効果があることが報告されています。今回の実験ではキルタン・クリヤー瞑想が使われましたが、マインドフルネス瞑想や禅などでも同様の効果が得られるようです。瞑想の方法や解説を記した書籍やサイトは簡単に見つかりますので、「最近、物忘れが多くなった」と感じている方は、一度試してみてはいかがでしょうか。

ご紹介した論文
Effects of Meditation versus Music Listening on Perceived Stress, Mood, Sleep, and Quality of Life in Adults with Early Memory Loss: A Pilot Randomized Controlled Trial.
Innes KE et al. J Alzheimers Dis. 2016 Apr 8;52(4):1277-98. doi: 10.3233/JAD-151106.