脈圧がアルツハイマー病を予測する可能性

大塚真紀

血圧が認知症予防にも影響が(イメージ)
出典元:pixabay.com

収縮期血圧から拡張期血圧を引いた脈圧の上昇は、動脈硬化の指標や血管の老化を示すマーカーとなります。脈圧が大きい高齢者は脈圧が小さい人と比べると認知症の進行が早いという報告も。まずは普段から血圧を測る癖付けが必要ですね。

脈圧がアルツハイマー病を予測する可能性

日本高血圧学会のガイドラインでは、140/90mmHg以上を高血圧と診断します。日本人において高血圧を発症している方は約4300万人で、この数字は国民の3人に1人は高血圧であることを示しています。

高血圧は心臓病や脳卒中を引き起こす危険因子として知られていますが、よりシンプルな指標である脈圧もさまざまな病気の発症を予測できると考えられています。今回は、脈圧がアルツハイマー病を予測する可能性があることを示した論文について解説します。

そもそも脈圧とは

血圧とは血管にかかっている圧力を示すもので、収縮期血圧と拡張期血圧で表されます。

収縮期血圧は、心臓が最も収縮している時の血圧で最高血圧、最大血圧または上の血圧と呼ばれることがあります。

拡張期血圧は、反対に心臓が最も拡張している時の血圧で最低血圧、最小血圧または下の血圧と呼ばれます。

脈圧とは収縮期血圧から拡張期血圧を引いたもので、例えば血圧が120/80mmHgであれば脈圧は40mmHgになります。

脈圧の正常範囲の目安は30-40mmHgといわれています。脈圧の上昇は動脈硬化の指標や血管の老化を示すマーカーになると考えられており、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患の発症と死亡を予測することがわかっています。

脈圧が大きいほどアルツハイマー病を発症する

アルツハイマー病を予測できる因子として、収縮期血圧から拡張期血圧を引いたシンプルな指標である脈圧が有用であることがわかりました。

大規模観察研究ADNI(Alzheimer’s disease neuroimaging initiative)の解析結果から明らかになり、2015年にJAMA Neurologyで報告されました。

解析の対象となったのは、55-91歳の全身状態が良好で、認知機能が正常または軽度障害されている方877人でした。

アルツハイマー病の原因は未だ不明な点も多いですが、アミロイドベータやタウと呼ばれるタンパク質が脳に過剰に蓄積していることがわかっています。脳脊髄液中のアミロイドベータやタウが陽性の場合には、アルツハイマー病を発症する可能性が高いと考えられています。

今回の研究では、各年代において脳脊髄液中のアミロイドベータとタウが脈圧とどのような関係にあるか調べました。全年齢では、脈圧が63mmHgを超えるとアミロイドベータとタウが陽性の人が増加することが明らかになりました。また、その後約2年間の追跡調査の結果、脈圧が大きかった80歳以上の方は、脈圧が小さかった方に比べると認知症への進行が早いことがわかりました。

このことから、血管の加齢の指標といわれている脈圧は、幅広い年齢においてアルツハイマー病の発症と関連している可能性が明らかになりました。

脈圧を改善する方法

脈圧が大きいことを改善する方法は、基本的に高血圧の治療と同様です。まず生活習慣を改善し、脈圧が改善しなければ降圧薬の内服を考慮します。

血圧は食事中の過剰な塩分、肥満、運動不足、アルコール多飲や喫煙によって上昇することがわかっています。日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインには、高血圧予防のための生活習慣における修正項目が記載されています。具体的には、1日の食塩6g未満、野菜や果物の積極的な摂取、適正体重の維持、適度な運動(有酸素運動を毎日30分以上)、アルコール制限、禁煙などが挙げられています。

まずは生活習慣を改善するようにして、毎日決まった時間に血圧を測定する癖をつけるようにしましょう。血圧を測定する機械は、薬局やドラッグストア、電化製品店などで購入することができます。腕で測定するタイプのものを選び、朝晩の決まった時間に測定し紙や手帳などに記載しておきましょう。できればグラフを作成し、全体の血圧の傾向を把握できた方が自分の体の変化にも気づきやすくなります。

脈圧が50mmHgを超えなければ、心血管疾患や脳血管疾患などのリスクが下がるだけでなく、動脈硬化が進行することを抑制できる可能性があります。また、今回の研究にもあったように将来アルツハイマー病を発症する可能性を低くすることができるかもしれません。今後、シンプルな指標である脈圧が認知症の予測因子として使用できるのではないかと期待が高まっています。

(参考論文・参考資料)
Pulse Pressure in Relation to Tau-Mediated Neurodegeneration, Cerebral Amyloidosis, and Progression to Dementia in Very Old Adults
Daniel A. Nation, PhD1; Emily C. Edmonds, PhD2; Katherine J. Bangen, PhD2,3; Lisa Delano-Wood, PhD2,3; Blake K. Scanlon, PhD4,5; S. Duke Han, PhD6,7; Steven D. Edland, PhD8; David P. Salmon, PhD8; Douglas R. Galasko, MD3,8; Mark W. Bondi, PhD2,3 ; for the Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative Investigators
JAMA Neurol. 2015;72(5):546-553.
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2009」