教えて!認知症予防〜脳神経外科医篠浦先生に聞く(16)

篠浦伸禎

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脳の名医篠浦先生のシリーズコラム第16弾。先生の実体験に基づく運動による脳活性化について解説いただきます。

まずは筋力をつける

前回科学的な視点から、運動が脳機能の改善に役立つことを述べましたが、今回は、具体的に私のような老境にさしかかりつつある人間が何をして効果を感じているのか、その根拠に関してものべたいと思います。

まず、高齢者には、膝や腰が痛いため運動ができないというかたが多くいらっしゃいます。高齢者は、有酸素運動を含めたやや負荷の高い運動を行う前に、まず筋力をつけることが大事です。筋力をつけるためには、ゆったりした動きと軽めの負荷で、様々な部位の運動たとえばスクワット(私は階段を一段とばしで上がることで代用しています)、腕立て、腹筋運動をすると有効です。これはスロートレーニングといいます。無理ない負荷でこれらの運動をゆっくりと行うと、成長ホルモン等の分泌を促し、筋肉が容易に太くなります。

これは短い時間で、自宅の室内でも簡単にできるので、私は毎日続けています。私は、40歳台のころ運動しなかったせいかいろいろな場所の痛みを感じましたが、このように様々な筋肉を太くすることにより、痛みをほとんど感じなくなりました。

真向法と足裏健康法

もうひとつ、私が痛み、特に腰痛予防で毎日行っている運動に、真向法があります。
足裏を合わせて膝を曲げた状態、足をまっすぐ伸ばした状態、120度まっすぐ開脚した状態で上体を前屈、割り坐の状態で後屈するといった4種類の簡単な運動なのですが、これが腰痛の予防、改善に極めて効果的なのです。

15年くらい前に、腰の激痛が何回かあって苦しい思いをしてから、私はこの体操が腰痛に効果があるということを知り、やり始め、それ以来一度も腰痛がありません。腰痛の大半は原因不明といわれており、精神的なストレス特に怒りが原因であるという説もあります。それを裏付ける報告として、慢性的な腰痛持ちのかたは、左の扁桃体、つまり怒りにつながる脳の場所が過剰に活性化しているといわれています。腰痛は単なる身体の一部の痛みではなく、脳の機能の異常から発生していることが多く、腰痛を真向法で治すことは、逆に脳の機能の改善にも効果があるのです。

上記の真向法とともに私が毎日やっていることに、足裏健康法があります。
これは、凹凸のある板の上を往復したり、ツボを刺激するような底に凹凸のある靴を履いて歩く運動です。これは最初は痛いのですが、その後だんだん気持ちよくなります。足の領域は脳でいうと大脳半球の内側にあり、つまり帯状回などの脳の司令塔の領域のすぐ近くにあり、足の裏の刺激はその脳の大事な領域の刺激になると私は推測しています。よくしっかりした考え方をもっている人を、足が地についているという表現をしますが、足底を刺激して血流を増やすことが、なにか脳機能にもいい影響を与えているのではないかと感じています。

武道は脳の活性化に有効

さらに武道も、脳機能を改善するのに有効だと私は感じています。太極拳が認知症予防に有効であるという報告は、数多くあります。私は、6年前から空手を習っていますが、それが脳の活性化に有効であるという実感があり、それにはさまざまな理由があると推測しています。

ひとつは、右脳を刺激することです。右脳は周囲の空間に対応する脳ですが、空手では相手の動きや気に機敏に対応するために、右脳が否応なしに活性化されます。また、空手の動きは腰を中心に体幹がしっかりしていないと、すばやく動けません。これにより、脳の司令塔の領域が活性化すると私は考えています。というのは、司令塔の領域である帯状回に脳梗塞があると、体幹がふにゃっとなり、姿勢が保てないのです。体幹を鍛えることが、脳の機能の向上に結びつきます。空手は、体幹などの起立筋が強くなるので、寝たきりになるのを防ぎ、認知症予防になります。

また、空手はホルミシス効果があります。ホルミシス効果とは、適度のストレスがあることが人間の活性化につながるという現象のことですが、空手は油断すると殴られるので常に緊張感があり、空手が終わった後ほど自分の頭がすっきりすることはないと私は実感しております。これは、適度の緊張感で自分の脳が活性化したためかと思われます。

最後に、空手には型があり、それを繰り返し行うことで小脳が鍛えられ、それにより過剰な扁桃体の活性化からのがれられます。空手をやるとストレス解消になるのはこのせいもあると私は感じています。このように、武道は脳機能の活性化にきわめて有用な方法になります。