教えて!認知症予防〜脳神経外科医篠浦先生に聞く(17)

篠浦伸禎

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脳の名医篠浦先生のシリーズコラム第17弾。今回は痛みと脳の関係、痛みへのアプローチの仕方など「痛み」について解説いただきます。

様々な痛みについて

では、前回のべた痛みをどう改善するかについて私の見解をのべます。というのは、痛みがあることで高齢者は活動が制限されたり睡眠障害になることが多く、それが脳機能の低下、はては認知症につながってしまうからです。前回は自分の腰痛に関してのべましたが、今回は膝や股関節の変形性関節症、頸椎や腰椎の脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニアから起こっているといわれているーこれは整形外科医が一般的に説明することですがー痛みに関してのべてみます。

実は頸椎の脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアに関しては、私は10年くらい前まではかなり手術を行っており、麻痺等は改善しますが、痛みに関して改善したという記憶はあまりありません。むしろ痛みが悪化した例もありました。さらに、私のところに通ってくる高齢者の患者さんの中で、膝が悪いから人工関節を入れている患者さんもいますが、あまり結果がはかばかしくない印象があります。

そこで、膝や腰の変形に対して人工関節を入れることの是非、痛みを改善させるために頸椎や腰椎の脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアの手術を受けることの是非について考察してみます。これは前回同様、痛みというのは脳がかかわっており、脳の機能を悪くしないという意味でも痛みをとることは重要な課題であるからです。たとえば、慢性腰痛の患者さんの脳血流をみると前頭前野の血流が低下しているという報告があります。前頭葉の血流が低下すれば、当然長期的に見て脳の機能が落ちます。痛みと脳機能の低下は無縁ではないということになります。

まず医学的にはっきりしていることは、関節や骨の変形と痛みとは関係がないということです。整形外科にいって痛みをとるための手術を勧められた人には意外に聞こえるでしょうが、これには様々な証拠があります。

まず、画像的にヘルニアがある人とない人で痛みの頻度の差がない、膝の変形のある人とない人で痛みの頻度の差がない等それを裏付ける画像的な報告はたくさんあります。さらに、腰椎脊柱管狭窄症への手術後を長期フォローすると10年後に半数以上が歩行障害をきたしており、結果がよくないという報告もあります。

また、石川県小松市の加茂整形外科医院では、腰痛や膝痛にトリガーポイント療法、つまり痛い筋肉の場所に局所麻酔を打つ治療を行っており、変形があるから手術が必要だといわれた患者さんの痛みが、手術を受けることなく数回の筋肉注射でよくなる、という話があります。つまり、痛みの原因は、関節や骨の変形からくるのではなく、筋肉の痛みからくるということになります。筋肉の血流低下により発痛物質がでて脳が痛いと感じ、それが医者に行くことで関節や骨の変形からくるといわれて誤解し、それが相乗作用となって、自分の痛みは変形があるから一生治らない、手術を受けなくてはだめだというストレスで増幅されるわけです。その証拠に、腰痛がある患者さんは、安静にするより動いた方が治るという報告があります。私も同じ経験しましたが、動いた方が治るということは、変形による神経の圧迫ではなくて血流が原因であり、動いて血流を増やすことが治癒につながるということです。

痛みに対してのユニークなアプローチ

痛みに関して有効なアプローチをしているリガトアという会社があります。彼らはサッカーのJリーガーのトレーナーをしており、マッサージ、トレーニング、鍼灸、メンタルのサポートなど総合的な方法で、ヨーロッパにいる一流選手も含めて、サッカー選手が活躍するのに大きな貢献をしています。

彼らはそれの方法論を生かして、高齢者で痛みを持っている人たちに対しても施術をしています。筋肉は使いすぎると痛みがでるし、使わなくても痛みがでます。そのバランスを上記の様々な方法を駆使してとりながら、痛みが徐々に軽減するという結果をだすことで患者さんの意識をかえ、その自信がさらに痛みの改善につながる、といった好循環で、手術が必要だと言われた患者さんの痛みの真の原因(筋肉と筋膜)をさぐり、改善につなげています。

実際、痛みのため車いすで一生歩けないと思っていた人が、治療を受けることで旅行にいけるまでになった例もあります。痛みに関しては筋肉や筋膜の問題がほとんどなので、安易に手術にたよるのではなく、リガトアのような本質的なアプローチをまずやることが大事であると私は感じています。もちろん痛みをとるには本人の努力が必要ですが、努力することが脳機能の改善にもつながるのです。