なぜ、アルツハイマー病では記憶障害がおこるのか?

大塚真紀

記憶はどうやって障害が起こるのか(イメージ)
出典元:pixabay.com

アルツハイマー病の原因は依然として詳細不明です。今回はアルツハイマー病の記憶障害の原因となる神経細胞を同定したとする研究を紹介します。

アルツハイマー病はまだ詳細不明の病気

アルツハイマー病は脳にアミロイドやタウと呼ばれるタンパクが異常に集積することは分かっているものの、その詳細なメカニズムは依然として不明です。また神経伝達物質であるアセチルコリンの産生が少ない、またはほとんどないことも原因の1つと考えられています。

私たちの体は多くの神経の働きによって、正常に動くことができます。例えば手足の神経がうまく働かないと歩いたり、何かをつかんだりできなくなります。脳の神経がうまく働かないと記憶や感情のコントロールができなくなります。これらの神経の動きをうまく機能するように神経と神経をつなげる役目をしているのが神経伝達物質で、先ほど挙げたアルツハイマー病で産生が低下するアセチルコリンもその1つです。

神経伝達物質は、大きく分類すると3種類あり、アミノ酸類、ペプチド類、アミン類に分かれます。アミノ酸類には、グルタミン酸やアスパラギン酸、ペプチド類にはバソプレシンやソマトスタチン、モノアミン類にはノルアドレナリンやドパミン、セロトニン、アセチルコリンなどが含まれます。

アルツハイマー病の記憶障害の原因に関する新発見

広島大学と福島県立医科大学の共同研究チームは2015年8月に、アルツハイマー病の記憶障害の原因となる神経細胞を同定したと発表しました。

人間のもつ基本的な記憶機能の1つに再認記憶というものがあります。以前に見た物や会った人、行った場所などを思い起こす時に必要な機能です。しかし、アルツハイマー病を発症すると初期症状として再認記憶が著しく障害されます。この再認記憶の障害は、アセチルコリン神経細胞の脱落により起こることは以前から指摘されていましたが、どの細胞かは特定できていませんでした。今回、脳内にいくつかの場所に存在するアセチルコリン神経細胞の役割を明らかにするために、目的とする神経細胞のみを取り除く技術を使って研究しました。

具体的には、それぞれのアセチルコリン神経細胞を除去したマウスを別々に作成し、マウスにいろいろな物を見せて検証しました。結果としては、除去した神経細胞によって、物そのものは覚えていても場所を覚えていないマウスと場所は覚えていても物が何かは分からないマウスに分かれることが明らかになりました。また、すでにアルツハイマー病に使用されている薬剤をマウスに投与したところ、それぞれの再認記憶の障害を改善することができたそうです。 

この研究によって、異なるタイプのアセチルコリン神経細胞が別々の再認記憶の機能、つまり物と場所の認識を担っていることが分かりました。 アルツハイマー病では、この2つの種類のアセチルコリン神経細胞が障害されているので、物と場所が両方分からなくなる再認記憶障害を起こしていることも明らかになりました。

記憶を失う(イメージ)
Photo by pixabay

アルツハイマー病の治療薬開発への期待

アルツハイマー病の原因として、神経伝達物質であるアセチルコリンの産生低下が指摘されて以来、抗アルツハイマー薬としてアセチルコリンを守る作用のあるものが開発され使用されてきました。

しかし、これらの治療薬は有効性があったものの、アルツハイマー病の進行を止めることがほとんどの場合には難しいと分かりました。この原因として、アセチルコリンの作用する神経がすでに障害されている、アセチルコリン以外の神経伝達物質も低下している、などが挙げられてきました。

今回の研究による発見では、再認記憶障害に関わるアセチルコリン神経細胞の場所を特定できたので、今後、アルツハイマー病の発症機序や記憶障害に対する治療薬の開発に大きく結び付くのではないかと期待されています。ただし、今回の研究はマウスで行っているため、今後ヒトでも同様のことがいえるのか検討する必要があります。

(参考論文・参考資料)
Distinct roles of basal forebrain cholinergic neurons in spatial and object recognition memory
Kana Okada, Kayo Nishizawa, Tomoko Kobayashi, Shogo Sakata, Kazuto Kobayashi
Sci Rep. 2015; 5