認知症って治るの?MENDプログラムってどんなもの?

工樂真澄

生活習慣プログラム(イメージ)
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風邪や腹痛は、たとえ辛い経過をたどったとしても、いつかは治りますよね。認知症は残念ながらまだ根本治療法はありません。しかし今回は一人一人に合わせたきめ細やかな治療によって、初期の認知症から回復した例をご紹介します。(監修:医師 大塚真紀)

認知症に確立した治療法はない

アメリカのUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のブレデセン博士は、2014年に認知障害の改善のための治療プログラムを発表しました。

ある67歳の女性は、責任ある仕事を任され精力的にあちこちを飛び回る日々でしたが、2年ほど前から「物忘れ」に悩まされ始めました。報告書を最後まで読むと、すでに最初を思い出すことができず、進行する症状のせいで仕事を辞めることを考えなければなりませんでした。

たった4ケタの数字が覚えられなかったり、通い慣れた道を忘れてしまったり、ペットの名前までわからなくなり、家の照明のスイッチがどこにあるか忘れてしまう始末でした。

彼女の母親もまた、生前、認知症を患っていました。医者からは「家族性のものなので、手の施しようがない」とさえ言われました。そんな彼女がブレデセン博士のもとで始めたのが「MEND(metabolic enhancement for neurodegeneration)プログラム」です。

認知症の治療は、風邪や腹痛の治療のように、必ずしも決まったものがあるわけではありません。医師は認知機能の低下をくいとめながら、うつ症状や興奮症状などに対処するような薬を用いて、最善の治療法を模索しています。ブレデセン博士はよりきめ細やかな分析を行って、個人向けの治療プログラムを用意しました。

MENDプログラムとは

彼女の状態に合わせた食餌療法はもちろんのこと、睡眠時間の確保や運動、脳の刺激訓練などがプログラムに組み込まれました。また瞑想や音楽療法によるストレス軽減、サプリメントや治療薬によるホルモンバランスの維持やミトコンドリア機能の維持、過剰な活性酸素の抑制など、生理学的データ分析から得られた結果に則したプログラムが取り入れられました。

上記のプログラムに従って、炭水化物を避け野菜中心の食事にしたことから、彼女は20ポンド(約9キログラム)の減量に成功しました。毎日20分の瞑想を行い、治療の一環で始めたヨガでは、インストラクターの資格まで取得しました。毎日4時間から5時間しかとっていなかった睡眠を、7時間から8時間に増やしました。

医師との面談による意思疎通を怠らず、口腔ケアやホルモン療法、夕食から朝食までは12時間空けるなど、生活習慣についても細かい設定がされました。

プログラムに沿った生活を3カ月続けた結果、彼女はまた一人で運転ができるようになりました。電話番号も難なく覚えられるようになり、報告書の作成も以前と同じようにこなせるようになりました。論文発表現在、彼女は70歳になりましたが、認知症を発症することなく元気に仕事に精を出しているとのことです。

この症例を読んで「たまたまじゃないの」、と不審に思う方も多いでしょう。ブレデセン博士の治療の根幹は、重度の認知症になる前に、体を正常な状態に整えることにあります。

認知症研究は著しく進歩しており、日々新たな知見が得られています。認知症にいたるまでの分子メカニズムも少しずつ明らかになっていますが、全容解明にはまだまだ時間がかかります。ブレデセン博士らの方法は、それらのとぎれとぎれの知見をいかして、認知症の原因を作り出すような状況をできる限り排除するよう、多方面から状態を整えるというものです。

軽度認知障害のうちに手を打つ

続報としてブレデセン博士は2016年に、認知症から回復した10人の患者さんのケースを報告しました。論文のケースとなったのは軽度認知障害や、初期のアルツハイマー病の方ばかりです。軽度や初期であっても放っておけば、高い確率で認知症に移行します。しかし脳の可塑性を信じて治療すれば、正常に戻る可能性があるのもまた事実なのです。

今回の報告は症状が軽いうちならば、生活習慣の改善や細やかな指導によって認知機能は改善することを示したものです。「認知症は不治の病」という常識が、いつか覆される日がくると期待しましょう。

Reversal of cognitive decline in Alzheimer’s disease.
Bredesen DE et al. Aging (Albany NY). 2016 Jun 12.

Reversal of cognitive decline: a novel therapeutic program.