農薬によってアルツハイマー病を発症する可能性

大塚真紀

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出典元:pixabay.com

戦後の日本で殺虫剤として使用されていたDDT。1971年以降登録が失効し使用されなくなりましたが、世界各国ではまだ使用されています。このDDTの代謝産物であるDDEの血中濃度とアルツハイマー病のリスクに関する論文についてご紹介します。

DDTとは

DDTとは、dichloro-diphenyl-trichloroethane(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)の略で殺虫効果のある有機塩素系の農薬のことです。殺虫剤としてかつては日本でも使用されていましたが、1971年に農薬としての登録が失効し、その年以降から現在まで使用できなくなっています。日本で使用されなくなったきっかけは、環境や体への悪影響が懸念されたためです。しかし、安くてよく効くという理由から世界各国ではまだ使用されています。

DDTが有名になったのは、終戦後にシラミやマラリアの予防のために日本中にまかれたからです。イギリスやアメリカでは、戦争中に蚊によって感染するマラリアから兵士を守るために使用され、患者の数を激減させたといわれています。この功績が認められて、開発者であるスイスのミュラーはノーベル賞を受賞しています。

農薬が人間に与える影響

DDTが発売された後には、その効果の大きさから世界各国で大量に使用されました。アメリカでは、森林保護の目的で葉を食い荒らすガを駆除するために森へDDTを大量に散布していました。また、家屋への浸入が問題になっていたアリの駆除のためにも使用され、ハエの発生した湖にもDDTを流し込んでいました。

このように人々はDDTの効果に期待し、全世界で使用開始から30年の間に300万トン以上のDDTが使用されました。しかし、大量の殺虫剤によって野生生物に悪影響を与えるだけでなく、人間の体にも影響がある可能性が指摘され、日本やアメリカなどの先進国では使用されなくなっていきました。
しかし、発展途上国ではまだ使用されており発展途上国から輸入された農作物にはDDTが付着している可能性があります。

今回紹介する研究は、DDTとアルツハイマー病の関連に関するものですが、今までの報告ではDDTがパーキンソン病の発症リスクを高めることも指摘されています。また、DDT以外の有機塩素系の殺虫剤でうつ病の発症リスクを高めることがわかっています。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4154212/

殺虫剤によってアルツハイマー病を発症する可能性

アメリカの研究チームは、アルツハイマー病を発症している患者において殺虫剤の代謝産物が血液中で高くなっていることを2014年3月に「JAMA Neurology」誌に発表しました。

研究チームはすでに、20名のアルツハイマー病患者を対象として、以前に農薬として使用されていた殺虫剤の1つであるDDTの代謝産物であるDDE(ジクロロジフェニルジクロロエチレン)の血中濃度が高いことを確認していました。今回は、アルツハイマー病患者86名、健常者79名を対象に、血液中のDDE濃度を測定し、アルツハイマー病発症との関連を調べました。すでにアルツハイマー病発症リスクといわれている遺伝子であるAPOE4との関連も解析しました。
するとアルツハイマー病患者は、健常者に比べてDDEの血中濃度が3.8倍も高いことが明らかになりました。また、血液中のDDE濃度が高いと脳内のDDE濃度も高いことがわかりました。ヒトの神経細胞に対しDDTまたはDDEを投与すると、アルツハイマー病と関連するといわれているアミロイド前駆体タンパクが上昇することも明らかにしました。血液中のDDE濃度が高く、APOE4遺伝子変異をもつ人においては、よりアルツハイマー病を発症しやすいこともわかりました。

今回の研究から、血液中のDDE濃度が高いことはアルツハイマー病の早期発見に役立つのではないかと研究チームは結論付けています。しかし、血液中のDDEがどれくらい高いとアルツハイマー病を発症しやすいかはまだはっきりせず、アルツハイマー病の発症に関与する他の因子と比べてDDTの影響がどれくらい大きいかも今後の検討課題といえます。

日本ではすでに使用されていない殺虫剤なので安心だと思うかもしれませんが、同じようにすでに使用を中止しているアメリカで今回の研究結果が出ているため、今後の研究結果に注目したいところです。今回の結果から、殺虫剤や農薬など使い過ぎは、時間が経って体に悪影響が出る可能性があるということがいえるのかもしれません。

<参考論文>
JAMA Neurol. 2014 Mar;71(3):284-90.
Elevated serum pesticide levels and risk for Alzheimer disease.
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24473795)