アミロイドPET活用で、アルツハイマー病の発症を未然に防ぐ!

工樂真澄

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出典元:pixabay.com

「PET」という医療機器をご存じでしょうか。いま、このPETを利用して、アルツハイマー病の「芽」を見つけ出す方法の開発が進んでいます。

PETで認知症の診断

認知症の研究が急ピッチで進む昨今、兆候を早期に発見できれば、認知症のタイプによっては、それ以降の進行を緩やかにできる可能性もでてきました。そこで最近、「ポジトロン断層撮影法(PET)」を利用して、認知症を早期に発見する取り組みが進んでいます。

PET検査は、「ポジトロン」という放射線を出す物質を体内に取り込み、そこから発した放射線から体内の様子を画像化して、病気の診断をします。従来のPETで用いられるのは炭素や窒素、酸素、さらにフッ素の放射性同位体です。たとえば、これらの放射性同位体元素を含んだブドウ糖を、注射などで体内に入れるとします。すると、ブドウ糖はこれを必要としている臓器に運ばれます。このブドウ糖が発する放射線を検知すれば、どこでどれだけ消費されているかがわかります。通常、脳は多くの糖分を必要としますから、もし消費が低下していれば、脳に何らかの異常があると考えられます。

アミロイドβをPETで検出

さらに、アルツハイマー病の診断のために開発されたのが、アルツハイマー病で蓄積するタンパク質「アミロイドβ」を検出する「アミロイドPET」です。この方法では、アミロイドβに特異的に結合する化合物をあらかじめ放射性同位体で標識しておくことで、アミロイドβを検出します。現在はアメリカのピッツバーグ大学で開発された「Pittsburgh Compound B(11C-PIB)」という化合物を使った方法が主流です。

しかしこの化合物は、「難溶性」のアミロイドβに結合しやすいという難点があります。アルツハイマー病の進行度合いの指標としては、神経細胞の死滅の原因となる「水溶性」のアミロイドβのほうが優れています。そこでスウェーデン、ウプサラ大学のSehlin博士らは、アミロイドβの「抗体」を使ったPET法を開発し、2016年にNature Communicationsに発表しました。

抗体を脳に取り込む工夫

抗体はタンパク質からできており、ある特定の物質に対してぴったりと結合するような構造をしています。アミロイドβに対する抗体を利用すれば、水溶性のアミロイドβの検出も可能ですが、脳への抗体の取り込みには大きな問題がありました。

脳には「血液脳関門」とよばれる仕組みが備わっています。脳は体の中でも特に大切な臓器で、外側は堅い頭蓋骨で守られています。しかし、体と脳は血管でつながっていますから、体内から有害な物質が入ってくることも考えられます。これを遮るのが「血液脳関門」です。血液脳関門は体の中を流れている血管と、脳の血管との間でフィルターの役目をして、タンパク質や薬剤などが容易に脳に入らない仕組みになっています。

この仕組みのおかげで、有害な物質が脳に侵入することを防ぐことができますが、抗体もまた脳に取り込まれにくくなってしまいます。博士らはこの問題を克服するために抗体を分割して、その一部のみを脳関門を通過できるタンパクに結合させました。その結果、この複合物質は脳関門を通過して、脳内のアミロイドβに特異的に結合することがわかりました。この方法により、少ない量であっても、的確にアミロイドβが検出できると期待されます。

アルツハイマー病発症の10年も前から検出できる

アルツハイマー病で観察される「老人斑」はアミロイドβが主な成分で、その蓄積は発症の20年も前から始まっているとされます。もし、ごく初期にアミロイドβの蓄積を見つけることができれば、薬による効果的な治療を行ったり、生活習慣を工夫したりすることで、アルツハイマー病の発症や進行を抑えられる可能性があります。もしアミロイドPETが通常の健診に加われば、将来的に認知症患者数の減少につながるかもしれません。

ご紹介した論文
Antibody-based PET imaging of amyloid beta in mouse models of Alzheimer’s disease.
Sehlin D, Fang XT, Cato L, Antoni G, Lannfelt L, Syvänen S.
Nat Commun. 2016 Feb 19;7:10759.

参考文献
「PET検査Q&A」 日本核医学会、日本アイソトープ協会