ウィルス感染がアルツハイマー病の原因になる可能性

大塚真紀

virus-1812092_1920

今回ご紹介する論文では、感染症の中でもヘルペスウイルスへの感染がアルツハイマー病の発症リスクを高める可能性について報告されています。

細菌やウィルス感染と病気の関係とは

けがをした後に赤く腫れてうみが出たり、風邪をひいた時に黄色い痰が出た経験がある方は多いのではないでしょうか。また、冬になると風邪やインフルエンザにかかったり、胃腸炎を発症する方もいます。このように細菌やウィルスに感染し、体に炎症が起きることを感染症とよびます。感染症にかかると、発熱や倦怠感、鼻汁、下痢など体にさまざまな影響が出ます。

一方で、今回紹介する研究報告で注目されているヘルペスウィルスのように一度感染すると神経に潜伏し、持続的に共存するものもあります。ヘルペスウィルスに以前に感染して、ウィルスが神経内に潜伏していると、疲労やストレス、ステロイド薬の使用などにより免疫力が低下した時に口唇ヘルペスを発症することがあります。口唇ヘルペスでは、唇や唇の周囲にぽつぽつと発疹や水ぶくれができます。

細菌やウィルスなどによる感染が、病気と関連していることが発見され、病気の治療法になることもあります。例えば、日本人に多い胃がんの原因としてヘリコバクター・ピロリ菌の持続感染が指摘されています。最近では健康診断にピロリ菌検査が含まれ、陽性の方に対しては抗菌薬の投与が行われます。

子宮頸がんには、ヒトパピローマウィルスの持続的な感染が関わっていることが指摘されており、アメリカではウィルスに対するワクチン接種が推奨されています。日本でも子宮頚がんワクチンとして接種することができるようになっています。

また、何らかのきっかけで免疫のシステムが異常を起こし、自分の体を攻撃する抗体ができてしまう膠原病とよばれる病気にもウィルスや細菌感染が関わっているのではないかと考えられています。

糖尿病の中で、自分のすい臓に対する抗体ができることで発症する1型糖尿病ではインフルエンザウィルスやその他の風邪の原因になるようなウィルス感染がきっかけになることがわかっています。

アルツハイマー病の発症にもウィルス感染が関与している可能性

スウェーデンの研究チームは、アルツハイマー病の発症にヘルペスウィルス感染が関与している可能性があることを2015年6月に「Alzheimer’s &Dementia」誌に発表しました。

研究チームは、3432人の人を対象に記憶力やヘルペスウィルス感染の有無に関して平均11.3年間調査しました。対象者の平均年齢は62.7歳で、男性は46.1%でした。観察期間中にアルツハイマー病を発症した人は、245名でした。結果を見ると、以前にヘルペスウィルスに感染し、再発の経験がある人はそうでない人に比べてアルツハイマー病の発症リスクが約2倍になることがわかりました。

また同じ研究チームが行った研究では、アルツハイマー病の患者360名と、アルツハイマーでない人360名の血液中のヘルペスウィルスに対する抗体を検査したところ、アルツハイマー病を発症した人の血液中にはそうでない人に比べて2.25倍、ヘルペスウィルスに対する抗体を認めることが分かりました。観察期間は平均9.6年間でした。

今回の研究結果から、アルツハイマー病とヘルペスウィルスの感染には関連があり、特に再発を繰り返している人は注意が必要である可能性が明らかになりました。研究チームは、ヘルペスを発症した場合には早めに抗ウィルス薬で治療した方がよいのではないかと結論付けています。

イギリスの研究チームは、すでに2008年にアルツハイマー病で死亡した患者の脳にヘルペスウィルスが存在することを突き止めており、アルツハイマー病にウィルス感染が関連している可能性を指摘しています。マウスを対象とした研究では、ヘルペスウィルスに感染させると脳にアルツハイマー病の原因と考えられているβアミロイドが蓄積することが明らかになっています。

今までの研究と今回紹介した研究を合わせて考えると、アルツハイマー病の治療薬として抗ウィルス剤の有効性があるのではないかとも考えられますが、アルツハイマー病の原因は未だに特定できておらず、ウィルス感染だけでは説明できないものもあります。そのため、ウィルス感染と認知症の関連に関しては研究者の中でも意見がわかれており、今後の研究に注目したいところです。

<参考論文・参考資料>
J Pathol. 2009 Jan;217(1):131-8. doi: 10.1002/path.2449.
Herpes simplex virus type 1 DNA is located within Alzheimer’s disease amyloid plaques.
Wozniak MA, Mee AP, Itzhaki RF.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18973185

>Alzheimers Dement. 2015 Jun;11(6):587-92. doi: 10.1016/j.jalz.2014.07.157. Epub 2014 Oct 7.
Herpes simplex infection and the risk of Alzheimer’s disease: A nested case-control study.
Lövheim H, Gilthorpe J, Johansson A, Eriksson S, Hallmans G, Elgh F.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25304990

>Alzheimers Dement. 2015 Jun;11(6):593-9. doi: 10.1016/j.jalz.2014.04.522. Epub 2014 Jul 17.
Reactivated herpes simplex infection increases the risk of Alzheimer’s disease.
Lövheim H, Gilthorpe J, Adolfsson R, Nilsson LG, Elgh F.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25043910