実年齢と体年齢の差は若い時から生じている

工樂真澄

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「健康寿命」という言葉をご存じでしょうか。健康寿命とは実際の寿命ではなく、大きな病気や寝たきりにならず、健康で暮らすことができる寿命のことです。日本では健康寿命は実際の寿命より約10年も短いとされ、いかに健康寿命を延ばすかは高齢社会の重要な課題の一つです。今回は、健康寿命に影響のある「加齢速度」について調べた興味深い論文をご紹介します。

若い人でも「実年齢」と「体年齢」には差がある

アメリカのデューク大学とニュージーランドのオタゴ大学などのグループからなる研究チーム(第一著者DW Belsky博士)は、30代の若者の「実年齢」と「体年齢」について、2015年にPNASに興味深い論文を発表しています。実際の年齢である「実年齢」に対して、各臓器や血管の状態などからわかる「体年齢」には個人差があります。研究グループは、加齢の実態を探るには若い世代の「体年齢」を調べる必要があると考え、調査を行いました。

調査対象者は1972年4月から1973年3月にニュージーランドで生まれた1037人です。彼らは生まれてから3歳、5歳、7歳というふうに、現在に至るまで長期間にわたって定期的に健康調査を受けています。今回の研究は、彼らが38歳の時に受けた健康調査の結果をもとに行われました。検査項目は各臓器や血管の状態、免疫力や代謝能力、そしてDNA検査など多岐にわたります。さらに体力テストや認知機能テストを行ってもらいました。これらの項目を総合的に解析すると体年齢の中央値は38歳付近ですが、分布は実年齢でいうところの28歳から61歳相当にまで広がり、体年齢は個人差が大きいことがわかりました。さらに、彼らが26歳、32歳、38歳のときの検査数値を経時的に解析して、各人の「加齢速度」を調べました。

解析の結果、加齢速度が他の人よりも速い人ほど、握力や片足立ち、耐久力や運動能力などが実年齢よりも劣ることがわかりました。さらに加齢のペースが速い人ほど、認知力の低下も激しいことがわかりました。同じ年齢でも若く見える人、老けて見える人がいるなど、見た目は実年齢と異なることは皆さんも感じられたことがあると思います。今回の調査では、加齢速度の速い人ほど見た目が実年齢より老けており、また健康だと自身で感じる度合いが低いこともわかりました。

この結果より、実際の年齢にかかわらず、体の各部分の加齢の度合いには個人差があり、また加齢速度は体力や認知機能の変化に影響していることがわかりました。

加齢をいかに遅らせるかがこれからの課題

「年をとる」といいますが、何も老人になってから急に加齢するわけではありません。生まれたての赤ちゃんも、老人も一定の速度で年をとっています。しかし、生活習慣や運動習慣、環境などの違いによって加齢のペースには差があり、その差は年をとるにつれて大きくなり、やがて体力や認知機能などの差として表れると考えられます。今回の研究では、実年齢よりも体年齢の若い人も多数いたことから、加齢を遅らせることは可能だと考えられます。誰も年をとることに逆らうことはできませんが、加齢速度の違いにいたる生活習慣などを詳細に調べることで、健康寿命を延ばすヒントが得られると期待されます。

ご紹介した論文
Quantification of biological aging in young adults.
Belsky DW et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Jul 28;112(30):E4104-10.