胃薬を飲むと認知症になりやすいか

鈴木邦義(ペンネーム)

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認知症発症リスクが高まる可能性を発表された、胃薬として広く使用されているプロトンポンプ阻害薬ですが、今回ご紹介する論文ではプロトンポンプ阻害薬と認知症の発症の関連についてその仮説を裏付ける根拠は得られなかったことを報告しています。

胃薬と認知症の関係

胃薬の代表格であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、逆流性食道炎や胃・十二指腸潰瘍等の治療薬として広く使用されていますが、最近新たな副作用として、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の服用によって認知症になるリスクが高まる可能性があるのではないかとのデータが発表され、話題となっています。

しかし、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を服用している人が認知症になりやすいからといって、果たしてプロトンポンプ阻害薬(PPI)は認知症の原因のひとつなのかというと、必ずしもそうとは言い切れません。なぜなら、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を長期間飲んでいる人は、他にも多くの病気を持ち、別の薬も色々飲んでいる可能性が高いからです。

たとえば、よくプロトンポンプ阻害薬(PPI)が用いられる目的として、心血管疾患の予防のためのバイアスピリンによる胃・十二指腸潰瘍予防という場合があります。そのような患者さんでは、そもそも動脈硬化性疾患のリスクが高く、脳梗塞なども起こりやすいため、認知症リスクは自然と高くなることが容易に想像されます。そのため、そうした影響を統計的に正しく排除した形で解析し、解釈する必要があります。

一方では、動物実験のデータですが、プロトンポンプ阻害薬(PPI)によって、認知症においてよく見られるようになる、アミロイド蛋白という物質の産生が促進されるというデータもあります。さらに、ビタミンBをはじめとした、神経細胞の成長と維持に関わる栄養素の吸収を、プロトンポンプ阻害薬(PPI)が阻害するのではないかという知見もあります。

今回は、そうした議論の的になっているPPI(プロトンポンプ阻害薬)が、やはり認知症リスクを上昇させるものでは無いだろうと結論づけた報告を紹介します。

プロトンポンプ阻害薬(PPI)によって認知症リスクは上昇しない

米国内のアルツハイマー病を治療する施設において、もともと認知機能が正常、または、認知機能障害が軽度にとどまる50歳以上の1万486人を対象として、前向き観察研究を行い、認知機能へのプロトンポンプ阻害薬(PPI)使用による影響について検討しています。

試験対象者のうち、日常的にプロトンポンプ阻害薬(PPI)を服用している患者は8.4%、断続的に服用している患者は18.4%、一度も使用してない患者は73.2%という割合でした。その中で、年齢、性、併存疾患などの因子を調整して解析を行った結果、日常的にPPIを使用している者では、PPI未使用者と比べて認知機能低下のリスクがむしろ低いことが示されました。(HR 0.78, 0.66-0.93, p=0.001)

また、断続的にPPIを使用している患者とプロトンポンプ阻害薬(PPI)を使用していない患者とを比べて認知機能を比較したところ、断続的使用群の方が認知機能低下の危険性が低いという結果が得られました。

さらに、軽度認知機能障害または認知症の発症リスクも、日常的にプロトンポンプ阻害薬(PPI)を服用している患者および断続的に服用している患者において低いことが分かった、という結果でした。

以上の結果から、研究者らは、今回の研究においては、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用が認知機能低下、アルツハイマー病になる危険性の増大に関連するという仮説を裏付ける根拠は得られなかったと、述べています。

今回はプロトンポンプ阻害薬(PPI)と認知症の関連についての報告を紹介しました。プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃薬として効果が高く、世界中で頻用されている薬の1つです。まだ日本人でのデータが少ないこともあり、今後のさらなるデータの蓄積が待たれるところです。

ご紹介した論文
Proton Pump Inhibitors and Risk of Mild Cognitive Impairment and Dementia.
J Am Geriatr Soc. 2017 Jun 7. . doi: 10.1111/jgs.14956.
Goldstein FC et all.