痛みと認知症

鈴木邦義(ペンネーム)

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持続的な痛みの有無と認知機能についての関連性について調べたアメリカのカリフォルニア大学で行われた研究結果についてご紹介します。

慢性的な痛みを抱えていると記憶力が下がる

ご高齢の方の中には、腰痛やひざの痛みなど、重い持続的な疼痛にお悩みの方が多いですよね。整形外科に通っているものの湿布と痛み止めをもらうばかりでなかなかすっきりとは治らず、マッサージを受けて一時的に改善しても、翌日になればまた痛い。または、2-3日に1回は強い頭痛があって、何度もMRIをとったものの原因がわからないといったこともよくあります。「痛みがなければもっといろんなことができるのに」と愚痴をこぼしたくなるのも、無理がないことでしょう。

今回、そのような持続的な痛みに耐えて生活している方は、記憶力の低下や認知症の発症リスクを上昇させるのではないかという調査報告が発表されましたので、その内容をご紹介いたします。

調査内容

今回の調査では、アメリカのカリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者らが、Health and Retirement Studyという疫学研究のデータを用い、2000年時点に62歳以上であった高齢者1万人超を追跡し、持続的な痛みの有無と認知機能についての関連性について調べています。(持続的な痛みの定義として、1998年及び2000年の両方の調査時において、頻繁に中等度以上の疼痛に悩まされていると回答があった場合、としています)

10065人の対象者のうち、60%が女性で、年齢中央値は73歳でした。ベースラインにおいて、10.9%の人が持続的な痛みを訴えており、抑うつ的な症状や日常生活における制限を感じているという背景でした。

統計解析の結果、持続的な痛みを訴えている高齢者は、そうでない高齢者と比較した際に、記憶力の低下があらわれるのが9.2%(95%信頼区間:2.8~15.0)早まり、認知症を発症する時期が7.7%(95%信頼区間:0.55~14.2)早まる可能性が示されました。また、持続的な痛みを訴えている群において、10年後において認知症の罹患率が2.2%上昇するということも分かりました。

さらに、こうした記憶力の低下が影響しているのか、10年後において服薬管理ができなくなるリスクが15.9%高まり、金銭の管理もできなくなるリスクが11.8%も高まると推定されました。

痛みを軽視せず、しっかりと向き合うことが大切

持続的な疼痛が、記憶力が低下する時期を早め、さらに、認知症の発症も早めてしまう要因である可能性が示されました。ただでさえ痛みがあってつらいのに、さらに認知機能まで下がってしまうということであれば、当事者や家族にとっては非常に心配な結果でしょう。

痛みそのものが脳に影響するのか、それとも、痛みによって日常生活や社会的活動が制限されて、認知機能が下がりやすくなるのか、または痛みを抱えている方は動脈硬化性疾患をはじめとした、認知症リスクにつながる病態をもっているために認知機能低下のリスクが高いのかなど、いろいろな可能性が考えられます。

また、今回の研究デザインは観察研究であり、持続的な疼痛を訴える場合に、何らかの介入を改善・解消することにより、記憶力の低下や認知症の発症を遅らせることができるかどうかについては分かりません。

しかし、今回の研究において、持続的な中等度~重度の痛みがある割合が約10%との結果であり、ご高齢の方が日常生活に支障をきたすような痛みに悩んでいるのは決して稀なケースではありません。

認知機能を維持することは、高齢者が自立した生活を送るためには必要です。疼痛と認知機能との関連について正しく理解し、痛みについてきちんと評価することは、これからの超高齢化社会においては重要だと言えるでしょう。今後、前向き研究を始めとしてさらに踏み込んだデータが発表されることが待たれます。

ご紹介した論文
Association Between Persistent Pain and Memory Decline and Dementia in a Longitudinal Cohort of Elders.
Whitlock EL, et al. JAMA Intern Med. 2017 Aug 1;177(8):1146-1153.