アルツハイマー病の男女による発症リスクの違い

工樂真澄

woman-570883_1920

医学が速いスピードで進む昨今、認知症の発症原因も少しずつですが明らかになっています。認知症の中でも最も多いタイプが「アルツハイマー型認知症」です。その発症は生活習慣や運動習慣に大きく依存するようですが、遺伝的な要素も発症リスクを高める一因となります。今回は、アルツハイマー病の発症リスクを性別ごとに調べた論文をご紹介します。

アルツハイマー病発症に関わる遺伝子ApoE

認知症は新たな「生活習慣病」と言われるように、その発症には食習慣や運動習慣が大きく関わっているといわれます。しかし少なからず、遺伝的な要素も関係していると考えられています。認知症の中で最も多い「アルツハイマー型認知症」では、特に「アポリポタンパクE(ApoE)」という遺伝子が発症リスクと大きく関わっていることが明らかになっています。ApoE遺伝子は「アポリポタンパクE」というタンパク質を作り出す遺伝子で、「ε2」「ε3」「ε4」の3種類があります。私たちは2つのApoE遺伝子を持っており、最も多く見られるのは「ε3」タイプが2つという組み合わせです。

ApoEの遺伝子型とアルツハイマー病の発症率については、1997年に アメリカのFarrer博士らが発表した論文が今でも引用されています。この論文によれば、2つのうち1つでも「ε4」の場合には、発症リスクが他の組み合わせも持つ場合よりも高くなります。もし2つとも「ε4」タイプの場合には、発症リスクがさらに高くなります。これとは反対に「ε2」を持つ場合は、発症リスクが低くなる傾向があります。

南カルフォルニア大学のNeu博士らは、ApoE遺伝子のタイプとアルツハイマー病の発症率との関連を新たに調べ直し、2017年に発表しました。博士らは27の独立した研究の結果を一つにまとめて解析を行いました。解析に用いられたのは55歳から85歳までの58000人分のデータです。

解析の結果、ε4を一つでも持つ場合には、他の遺伝子型の組み合わせよりも、発症リスクが高くなることが確かめられました。これは以前の研究で報告された結果と同じでした。また、ε2を持つ場合は発症リスクが低くなり、この傾向は女性のほうが顕著でした。

1997年に報告された結果では、ε3とε4を持つ場合、どの年齢でも女性のほうが男性よりも発症リスクが高いという結果が得られました。しかし今回の解析では、全体的な発症リスクは、同じ遺伝子型を持つ場合には、男女で有意な差はありませんでした。しかし、年齢を65歳から75歳までに限ると、女性のほうが発症リスクが高くなることがわかりました。また、ε3/ε4遺伝子型の組み合わせを持つ人が、軽度認知障害からアルツハイマー病へ以降するリスクも、男女差は見られませんでした。しかし、これも年齢を55歳から70歳に限定すると、女性のほうが移行しやすいことがわかりました。

今回の研究から、全体的な発症リスクは男女では差がないものの、女性のほうが男性よりも若い年齢で発症リスクが高い傾向があることが明らかになりました。「ε4」タイプを持つ女性は、早いうちから積極的に生活改善を行うことで、発症を効果的に抑えられる可能性があります。

遺伝子型は目安でしかない

ただし、たとえ「ε4」を持っていても、生涯にわたって認知症を発症しない方もおられます。そのため、一概に遺伝子型だけで発症を予測することはできません。むしろ、早くから自分の遺伝子型を知っておくことで、規則正しい生活習慣を心がけるようになり、より効果的に発症リスクを下げることができるとも考えられます。

ご紹介した論文
Apolipoprotein E Genotype and Sex Risk Factors for Alzheimer Disease: A Meta-analysis.
Neu SC et al. JAMA Neurol. 2017 Aug 28. doi: 10.1001/jamaneurol.2017.2188.