地図を思い浮かべるのが苦手?認知症との関係とは

大塚真紀

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アルツハイマー病とアルツハイマー病予備軍において地図を読む能力の低下が認められたというアメリカの研究チームが発表した論文についてご紹介します。

方向音痴な人の脳

正しい方向へ迷わずに向かう、または地図を読めるという能力は、脳のあらゆる部分を総合的に使うことができることを意味します。

アメリカで行われた研究では、地図を読めない人の脳の中では2つの能力が低いことが明らかになっています。ひとつは、目の前にある道路や自分のいる場所を空から見た場合にどこに位置するか客観的に把握できる能力です。もうひとつは、頭の中で見ている物体を回転させて把握することができる能力です。

頭の中で物体を回転させることができる能力が高い人は、地図を見る時に常に北を上にする傾向があったそうです。しかし、物体を回転させることができる能力が低い人は地図を回転させて、自分の進行方向を上に向ける傾向を認めました。また、視点の切り替えがうまい人、すなわち地図が読めて方向音痴ではない人の脳をMRI(磁気を使用した画像検査)で見てみると脳の一部の活動性が高くなっていることがわかったそうです。

一方で、タクシー運転手を対象とした研究では、道をよく知っている人ほど脳の中で記憶をつかさどる海馬とよばれる部分が大きかったという報告もあります。この報告から、経験も重要ではないかと考えられています。

方向音痴はアルツハイマー病の前兆の可能性

認知症において、記憶力の低下が起きる数年前に空間認識力の低下が起きることが以前から指摘されてきました。空間認識力とは、物体の位置や方向、形、間隔などを正確に把握する能力のことです。例えば、地図を読む力、正しい方向へ歩く力、ボールが飛んできたときに予測して取ろうとする力などのことです。

アメリカの研究チームは、空間認識力のひとつである道を把握するという能力がアルツハイマー病あるいはアルツハイマー病予群である人において低下しているのではないかと考えました。そして、2016年4月にヒトを対象にした研究結果から、方向音痴であることはアルツハイマー病の初期症状の可能性があると「Journal of Alzheimer’s Disease」誌に発表しました。

研究チームは、アルツハイマー病の症状がある16名、アルツハイマー病の症状はないものの脳脊髄液にアルツハイマー病の兆候を認める13名、健常者42名を対象に、コンピュータを使用してバーチャル迷路を実施しました。研究チームは、「設定された道順を覚えて、たどることができる」「迷路の地図を脳内にうかべることができる」という2つの能力に特に注目しました。

結果は、健常者と比べてアルツハイマー病とアルツハイマー病予備軍において「迷路の地図を脳内にうかべることができる」能力が低下していることが明らかになりました。一方で、「設定された道順を覚えて、たどることができる」という能力においては、健常者と比較してほとんど差がないことがわかりました。

今回の研究で興味深い点は、アルツハイマー病の症状がないアルツハイマー病予備軍においても地図を読む能力の低下を認めたことです。記憶力の低下などのアルツハイマー病の初期症状が出る前に、地図が読めなくなるという症状が出る可能性の高いことがわかっていれば、早期に迷路を解くテストを行いアルツハイマー病の発症を予測することができるようになるかもしれません。
今回の研究は対象人数が少ないため今後より多くの人を対象とした研究が行われることが期待されます。

<参照サイト・参考論文>
https://www.wired.com/2013/11/map-sense/
https://www.nikkei.com/article/DGXBZO24330560S1A300C1000000/
1) J Alzheimers Dis. 2016 Feb 9;52(1):77-90. doi: 10.3233/JAD-150855.
Spatial Navigation in Preclinical Alzheimer’s Disease.
Allison SL1, Fagan AM2,3,4, Morris JC2,4, Head D1,2,5.
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26967209)