認知症と胃薬

鈴木邦義(ペンネーム)

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胃薬の一種であるプロトンポンプ阻害薬を認知症患者が服用することで肺炎の発症リスクが高くなるという研究結果を発表した論文をご紹介します。

認知症と胃薬(PPI)

認知症の患者さんが胃薬を飲まれるケースは多々あると思います。胃炎や胃潰瘍の既往がある場合や、脳梗塞予防でバイアスピリンを飲まれていて、その副作用予防として胃薬を処方されることもあるでしょう。

胃薬には、いくつかの種類がありますが、その中でもまずPPIというタイプの胃薬について説明します。

PPI(Proton Pump Inhibitor:プロトンポンプ阻害薬)とは、胃の中にあるプロトンポンプという、酸を分泌するポンプの働きを阻害することで、胃酸の分泌を抑える作用がある薬です。

臨床的には、胃潰瘍や逆流性食道炎による胃の痛みや胸やけなどの症状を抑えたい場合や、抗血小板薬の副作用として生じる胃潰瘍を予防するために用いられることが多いです。

PPIの副作用

PPIは現在非常に多くの人に処方されている薬ですが、薬としての一般的な副作用以外に、最近ではさまざまな弊害もある可能性が指摘されるようになってきました。

たとえば、下記のような懸念が報告されています。
・慢性腎臓病が発症する可能性がある
・認知症の発症リスクが高くなる
・アルツハイマー発症の原因の一つと言われている蛋白である、アミロイドβの脳への沈着が増加し、認知症を増やす
・他の胃薬であるH2ブロッカーと比較して、死亡リスクが増加する

特に、高齢者や、PPIを長期使用(数ヶ月以上)した場合、多剤併用した場合にそうした懸念が強まる可能性があると考えられています。

その中で、胃薬の1種であるプロトンポンプ阻害薬を飲むと、肺炎になりやすいかどうかという研究を取り上げたいと思います。胃とは別の臓器である肺と、胃薬の関係性は果たしてあるのでしょうか。

認知症患者における胃薬(PPI)と肺炎

Journal of the American Geriatrics Society誌に2017年7月に掲載された台湾の報告で、「PPIを使用した認知症患者786例」と「PPI使用のない認知症患者786例」についての肺炎の発症を調査したものです。

肺炎の発症リスクに関して、下記のような要素がリスクとして挙げられています。
①PPI使用群(1.89倍)
②年齢上昇
③男性(1.57倍)
③脳血管疾患の既往(1.30倍)
④慢性呼吸器疾患(1.39倍)
⑤うっ血性心不全(1.54倍)
⑥糖尿病(1.54倍)
⑦抗精神病薬の使用(1.29倍)

反対に、コリンエステラーゼ阻害薬およびH2受容体拮抗薬の使用は肺炎リスク減少に寄与していたとの結果です。

②~⑦まではこれまでも同様の結果が報告されていますが、PPI使用という因子が使用していない場合に比べて1.89倍も高い肺炎リスクになっているということは非常に驚くべき結果であると言えるでしょう。

胃薬と肺炎という2つの病気は、別の臓器におこる疾患であり、一見関係が無さそうにも思われます。なぜ胃薬の服用が肺炎のリスクを上昇させることになるかについては詳しくことは解明されていませんが、考えられる原因としてはどのようなものがあるでしょうか。

たとえば、PPIが認知機能に影響するという報告がありますので、誤って気管に飲み込んでしまうリスクを上昇させるかもしれません。または、胃内のpHを上昇させることで食物の消化が遅くなり、胃内での停滞時間を延長することで逆流性食道炎による肺炎を増やすのかもしれません。

特に胃潰瘍になると場合によっては出血性ショックになることで命に危険が及ぶ場合があることから、その予防としてPPIは膨大な数の患者さんに投与されています。しかし、PPIにも副作用があるという認識をあらたにする必要があるでしょう。もし必ずしもPPIでないといけないというケースもありますが、可能ならば代替薬としてH2受容体拮抗薬への切り替えを検討した方がいい場合もあるでしょう。

今後のさらなる研究が待たれるところです。

今回の記事でご紹介した論文
J Am Geriatr Soc. 2017 Jul;65(7):1441-1447. Association of Proton Pump Inhibitors Usage with Risk of Pneumonia in Dementia Patients