抗認知症薬よりも包括的なケアプログラムが役に立つ

鈴木邦義(ペンネーム)

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認知症治療における包括的なケアプログラムの効果を発表した研究内容についてご紹介します。

薬に頼らない認知症治療?包括ケアシステムとは

認知症は薬だけ飲んでいればいいという病気ではありません。脳を活性化するリハビリテーションと適切な医療・ケアを行うことで、認知症症状の進行が緩和され、場合によっては回復することもあります。医師による投薬という医療だけでなく、リハビリ、ケアなどの包括的な取り組みが、認知症対策においては重要です。

まず、包括的ケアシステムについて説明します。

高齢者にとっては、環境の変化がストレスになる場合が多々あります。そのため、住み慣れた地域や自宅で、可能な限り日常生活を送りたいと希望する人が多いものですが、そうした希望を持ちつつ介護が必要な認知症患者を効率よくサポートするために考えられたのが包括ケアシステムです。包括ケアシステムでは、「住まい」「生活支援」「介護」「医療」「予防」の5つのサービスを一体的に提供できるケア体制を構築します。

認知症と診断されても、その段階ではまだ自身でできることは沢山残っていることでしょう。認知症の進行予防において、家庭内で本人の役割や出番を作って、前向きに日常生活を送ることは大切なことです。アルツハイマー型認知症の治療には、書き取りやドリルなどの認知リハビリテーションのみではなく、昔の出来ことを思い出すこと、家族以外の人たちと交流すること、音楽、絵画、陶芸などを楽しむこと、囲碁、将棋、麻雀などを楽しむことや、ウォーキングなどの軽い運動をする、ペットを飼うなども脳の活性化につながります。また、家族や周囲の人の対応の仕方によって、行動や心理症状が改善することも知られています。

【住まい】
生活の基盤として必要な住まいがきちんと整備され、本人の希望と経済力に沿った住まい方が確保されていることが地域包括ケアシステムの前提です。周囲のサポートは必要ですが、それと同時に高齢者のプライバシーや人間としての尊厳が十分に守られた住環境を実現する必要があります。
【生活支援】
心身の能力の低下、経済的理由、家族関係の変化などの要因があっても、尊厳ある生活を継続できるように生活支援を行います。具体的には、生活支援の中には、食事の準備など、サービス化できる支援から、近隣住民の声かけや見守りなどのインフォーマルな支援まで幅広く存在し、担い手も多様です。
【介護・医療・予防】
個々人の抱える課題に合わせて「介護・リハビリテーション」「医療・看護」「保健・予防」が各専門職によって提供されるものです。ケアマネジメントに基づき、必要に応じて生活支援と一体的に提供します。

また、「住まいと住まい方」「生活支援」「介護」「医療」「予防」の5つの構成要素には含まれないものの、地域包括ケアシステムを支えていく重要な要素として、本人と家族の心構えも重要です。

包括的なケアプログラムの効果

認知症を根本的に治療する方法は、現時点では存在しません。認知症の薬(アリセプト、レミニール、イクセロンパッチ、メマリーなど)もあくまで症状を改善することを目指したお薬です。

認知症治療においてもっとも大切なのは、介護(ケア)であるといわれています。

今回、中程度~高度のアルツハイマー病の患者とその介護をしている人、20組について行われた研究をご紹介致します。20組のうち10組は、メマリーと包括的プログラムを実施する群(包括プログラム群)、残りの10組はメマリーと一般的な地域によるケアを実施する群(通常ケア群)として、28週間の観察研究が実施されました。

包括的プログラムとして、専門のスタッフが患者の自宅に訪問して、患者の状態と状況に合わして、認知機能や運動機能の活性化を促す訓練や、その患者を介護する人への指導などが行われました。

その結果、FASTとよばれる評価スコアでは、通常ケア群では3ポイント向上したのに比べて、包括的プログラム群では6ポイントの向上がみられました。

その差の3ポイントがどれくらい大きいのかという点については、以前に行われたメマリーという認知症治療薬の臨床試験において、プラセボ群と比べたメマリー群では、その改善効果が0.4ポイントであったという結果から考えるとよくわかるでしょう。

この報告は、包括的なケアプログラムを利用することは、認知症治療において大いに効果が期待できるという見方が示されています。今後、より大きい規模による研究や軽度の認知症の患者群の研究が待たれます。

ご紹介した論文
Comprehensive, Individualized, Person-Centered Management of Community-Residing Persons with Moderate-to-Severe Alzheimer Disease: A Randomized Controlled Trial.
Reisberg B et al.
Dement Geriatr Cogn Disord. 2017;43(1-2):100-117