肥満とアルツハイマー型認知症の両方に関連する遺伝子の特定

工樂真澄

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この夏、イギリスの医学誌『Lancet』に「認知症発症リスクが高くなる9つの要因」が発表され話題になりました。その要因として、喫煙や運動不足、聴力の低下などとともに挙げられたのが「肥満」です。今回は「肥満と認知症」に共通に関連する遺伝子についての研究をご紹介します。

肥満によって高くなる認知症発症のリスク

肥満は世界的にも懸念されている健康問題の一つです。肥満によって、高血圧や糖尿病、がんや心臓疾患など、数多くの病気を引き起こしやすくなると言われます。

また最近、肥満と認知症の関連が報告されています。2003年に発表されたスウェーデンの研究もその一つです。この研究は、392人の高齢者を、70歳から88歳まで18年にわたって追跡調査したものです。この研究によると、調査期間中に認知症を発症した人は、発症しなかった人よりも、BMI値が高い傾向がありました。特に、女性でこの傾向が顕著に見られ、70歳の時のBMIの値が1増えるごとに、アルツハイマー型認知症の発症リスクが36%増えることがわかりました。

このような報告は数多くあるものの、肥満と認知症発症の関係は明らかではありません。そこで、中国の山東大学のZhuang博士らのグループは、肥満とアルツハイマー型認知症の両方に関わる遺伝子を、大規模ゲノム比較解析によって調べ、2017年に報告しました。

先日こちらの記事https://www.nounow.jp/science/5041/でもお伝えしたように、遺伝子解析技術の向上に伴って、世界中でゲノムの大規模比較解析が進んでいます。ヒト同士であっても、ゲノム全体の0.1パーセントは個人によって異なり、そのわずかな違いが体質や性格、または病気のなりやすさにも関係していると考えられています。

特に、たった一つの「塩基」(DNAの構成要素:A、T、G、Cの4つから成る)の違いが、大きな違いに繋がる例が数多く見つかっています。このような「一つだけの塩基の違い」を「SNP(single nucleotide polymorphism:スニップ)」と呼びます。

博士らは、ヨーロッパ起源の人々322154人、ヨーロッパ起源ではない人々17072人のゲノムデータを解析して、まず肥満の人に特徴的なSNPを探し出しました。さらに17008人のアルツハイマー病患者のゲノムと、アルツハイマーではない37154人のゲノムを比較して、アルツハイマー病に特異的に見られるSNPを調べました。

解析の結果、肥満とアルツハイマー病のどちらにも関係があると判断されたSNPは31ありました。次に、これらがどんな遺伝子に含まれているかを調べ、結果的に7つの遺伝子を特定することができました。この中には骨の形成に関わる遺伝子や、細胞の「がん」化に関わる遺伝子も含まれていました。またアルツハイマー型認知症に深く関わると言われる「ApoE(アポリポプロテインE:関連記事https://www.nounow.jp/dementia/4906/)」も含まれていました。

今後は、見つかった7つの遺伝子の研究を進めることで、肥満が認知症発症リスクに繋がる仕組みが明らかになると期待されます。

認知症発症予防は生活習慣の改善から

認知症発症のメカニズムはまだわからない部分も多く、今回ご紹介した関連遺伝子の特定は、これからの認知症研究に大きく貢献することでしょう。認知症は生活習慣病とも言われ、生活習慣を改善することで発症リスクが下がると考えられます。まずは食習慣をあらため、定期的な運動や質の良い睡眠をとるなどして、肥満にならないよう意識した生活を送ることが大切でしょう。

ご紹介した論文
An 18-year follow-up of overweight and risk of Alzheimer disease.
Gustafson D et al., Arch Intern Med. 2003 Jul 14;163(13):1524-8.

Detecting the genetic link between Alzheimer’s disease and obesity using bioinformatics analysis of GWAS data.
Zhuang QS et al.Oncotarget. 2017 Jul 8;8(34):55915-55919.