アルツハイマー病治療薬として期待されたアデュカヌマブ、開発中止

nounow編集部

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バイオジェン社とエーザイ株式会社は、アルツハイマー病治療薬として大きな期待を集めていたアデュカヌマブの開発中止を発表、世界に衝撃を与えました。

臨床第III相国際共同試験を中止

3月21日、バイオジェン社とエーザイ株式会社(以下、エーザイ)は、アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度アルツハイマー病患者を対象とする、アデュカヌマブの有効性、安全性を評価する臨床第III相国際共同試験を中止することを発表しました。

アデュカヌマブとは、認知症の原因物質とされる脳内に蓄積されるアミロイドβに対する抗体ベースの免疫療法です。

2016年9月、科学誌「Nature」に、米国とスイスの研究チームが、初期のアルツハイマー病患者にアデュカヌマブを月1回1年にわたり静脈注射することで、アミロイドβが減少し、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせることに成功したとする論文が掲載されました。

そして、2017年4月には先駆審査指定制度※の指定を獲得するなど、アルツハイマー病治療薬として大きな期待を集めていました。

開発中のアルツハイマー病治療薬「アデュカヌマブ」、先駆け審査指定制度の指定を獲得

※先駆審査指定制度とは

厚生労働省では、海外では承認されていても国内では承認されていない未承認薬・適応外薬の問題(いわゆるドラッグラグ)を解消するため、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)の審査員の増員を通じて審査期間の短縮を図るとともに、学会等からの要望に基づき、医療上の必要性を評価した上で未承認薬・適応外薬の開発要請を通じてこれらの解消に努めてきました。

本制度は、この考えを更に推し進め、患者に世界で最先端の治療薬を最も早く提供することを目指し、一定の要件を満たす画期的な新薬等について、開発の比較的早期の段階から先駆け審査指定制度の対象品目(以下「対象品目」という。)に指定し、薬事承認に係る相談・審査における優先的な取扱いの対象とするとともに、承認審査のスケジュールに沿って申請者における製造体制の整備や承認後円滑に医療現場に提供するための対応が十分になされることで、更なる迅速な実用化を図るものです。 (厚生労働省HPより)

先駆審査指定制度に指定されたということは「既承認薬と異なる作用機序により、生命に重大な影響がある重篤な疾患(アルツハイマー病)に対して、極めて高い有効性が期待される医薬品」として認められたということであり、世界で最も期待されていた治療薬と言っても過言ではないでしょう。

自信を示していたエーザイ内藤CEO

また、エーザイは2017年10月、バイオジェン社とアデュカヌマブ開発の提携を拡大することを発表していました。

アルツハイマー病の創薬ではアミロイドβが脳に蓄積することで発症するとする「アミロイドβ仮説」が有力視されてきましたが、この仮説に基づいて開発された治療薬が相次いで臨床試験に失敗、アミロイドβ仮説がゆらぎつつあった中、エーザイ内藤CEOは会見で

最近の遺伝疫学的研究はアミロイドβを標的とする創薬アプローチを支持している。アデュカヌマブのP1b試験結果や、他社の抗アミロイドβ抗体の臨床試験からも、アミロイドβのリポジショニングを改善することが、認知機能の改善に結びつくことが示唆されている。アミロイドβが主要な病因の1つであるとの自信を深めているし、アデュカヌマブの開発成功の確度は高いと判断した

引用:「Aβ仮説に確信」エーザイ アルツハイマー薬開発で勝負に―アデュカヌマブ前倒しで共同開発

と述べていました。

残念ながら今回、独立データモニタリングコミッティにより行われた無益性(Futility)解析の結果、本試験において主要評価項目が達成される可能性が低いと判断されたことにより中止が決定されたとのことです。

しかし両社は翌22日、両社が共同開発を進める抗アミロイドβプロトフィブリル抗体「BAN2401」の国際共同臨床第3相試験「Clarity AD/301試験」をスタートしたことを発表しており、こちらも結果が注目されます。

揺らぐアミロイドβ仮説

大きな期待を集めていたアデュカヌマブの失敗により、改めてアミロイドβ仮説が揺らいでいます。

以前nounowでは、アミロイドβは、脳に侵入してきた細菌から脳を守る過程で蓄積されたものだった可能性があるという説を紹介しています。

Science Translational Medicine誌に掲載されたハーバード大学のクマール博士らの研究1)では、アミロイドβを過剰に生成するよう遺伝子操作されたマウスと、普通のマウスの両方を用いて、脳に大量の細菌(サルモネラ)を注入する比較実験が行われました。

するとアミロイド過剰マウスの方は、アミロイドβの塊を作り、その中に、やってきた外敵である細菌を封じ込めてしまったのです。普通のマウスはというと、アミロイド塊を生成できず、細菌感染で早くに死んでしまいました。

著者らは、「脳と細菌の闘争の末、アルツハイマー病が発症した可能性がある」と主張しています。

引用:アミロイドベータは脳の「仇」か「戦友」か?

また昨年、アルツハイマー病にヘルペスウイルスが関与しているという説が発表され話題になりました。

参考:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29937276

昨年5月に日本テレビ「世界一受けたい授業」に出演、話題になったデール・ブレデセン医師の「リコード法」と呼ばれるアルツハイマー病治療法でも、アミロイドβは脳の防御反応で生じるとし、脳にダメージを与える要因を取り除くことに着目しています。

アミロイドβ仮説に基づく、アミロイドβを標的とする治療薬は失敗が続いています。未だに原因さえはっきりしないアルツハイマー病。さらなる研究の進展が待たれます。