アルツハイマー病患者では神経新生が低下する〜アルツハイマー病の新説?

nounow編集部

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神経変性疾患と捉えられていたアルツハイマー病ですが、アルツハイマー病患者に神経新生の低下が起こっているとするスペインの研究をご紹介します。またその研究では、最近おこっていた「神経新生論争」に関して、90歳近い高齢者でも神経新生は起こることを示しています。

健常な大人では神経新生が起こるがアルツハイマー病患者では神経新生が低下する

アルツハイマー病(AD)は,主に記憶に関わる神経細胞が変性し、徐々に失われていく疾患と捉えられてきましたが、新たな知見を示唆する論文が最新号のNature Medicine誌にスペインの研究グループから発表されました.

Moreno-Jiménez, E. P., Flor-García, M., Terreros-Roncal, J., Rábano, A., Cafini, F., Pallas-Bazarra, N., … & Llorens-Martín, M. (2019). Adult hippocampal neurogenesis is abundant in neurologically healthy subjects and drops sharply in patients with Alzheimer’s disease. Nature medicine, 1. 

https://www.nature.com/articles/s41591-019-0375-9

この論文のタイトルを日本語に直訳すると、「神経学的に健常な大人の海馬では多くの新しい神経細胞が生成されるが、アルツハイマー病の患者では急激にこの神経新生が低下する」 になります。

これまではADは神経変性疾患と捉えられてきましたが、この研究の発見が事実ならば、ADは神経再生の異常としても捉えることができ、新説とも言える研究結果です。

ヒトの成人脳における未成熟神経細胞の観察技術を開発

未成熟神経細胞を可視化する実験プロトコル(実験の手順・条件等について記述したもの)が発表されましたが、様々な細胞マーカーを用いた免疫染色により、未成熟神経細胞の発生から成熟神経細胞に至るまでの各ステージを判別可能にしています。

その結果以下の2つの知見が得られました。

・健常者では87歳の高齢でも神経細胞の新生と成熟を確認

ひと昔前は、大人の脳では神経細胞が生まれ続けることはないと解釈されていましたが、その後の研究で、記憶を担う海馬の歯状回では例外的に、大人になっても神経新生が起きることが報告されてきました。さらにnounowでも何度か取り上げてきた通り、最近になってヒトの成人脳における神経新生は「ある」・「ない」という相反する研究論文が発表され決着がついていませんでしたが、今回の実験結果は、ヒトの成人脳における神経新生は「ある」を支持するものです。

以下は実験の詳細です。

43~87歳の健常成人(13名)の海馬歯状回を対象とし、様々なマーカーを用いた免疫染色により、未成熟神経細胞の成熟化の過程を調べました。その結果、未成熟神経細胞は老化とともに減少するのですが、87歳の高齢者においても存在し、さらに様々な成熟段階の神経細胞も確認されました。未成熟神経細胞のマーカーとして広く利用されている「ダブルコルチン」の陽性細胞は海馬歯状回にのみ存在し、この細胞から派生したと考えられる分化細胞の存在も確認しました。つまり、ヒトの海馬では、生涯神経新生が生じ、新しく生まれた神経細胞は既存の神経ネットワークに組み込まれ、学習や記憶などの海馬の機能を維持すると考察されます。

・アルツハイマー病の患者の海馬では神経新生は減少。成熟化も顕著に減少

上記と同様に、52~97歳までのAD患者(45名)の海馬を調べた結果、病期の初期から未成熟神経細胞が著しく減少していることが明らかになりました。また、年齢とは関係なく、ADの病期が進行するにつれて未成熟神経細胞が減少すること、またADでは未成熟神経細胞の成熟過程が強く抑制されていることも判明しました。本結果は、AD患者の脳では未成熟神経細胞は存在するが、脳の神経回路には組み込まれないため、記憶や学習に必要な機能を果たせない可能性を示唆しています。

本研究が今後のAD研究に与えるインパクト

これまでのADの治療の方向性は、アミロイドβやタウたんぱく質を標的とし、脳内に既存の神経細胞を守ることに主軸が置かれていました。しかし、もし仮に海馬における未成熟細胞の減少と成熟の抑制がADの主原因であるとしたら、これまでのようにアミロイドβやタウたんぱく質を標的にしてもADは改善しない可能性があります。

もし、この研究が事実であるとすれば、今後のADの研究や治療の方向性が変わる可能性もあり、成人の海馬における神経新生や成熟を促進することに主眼が置かれる可能性もありえます。

ただし、未成熟細胞の減少や成熟の抑制がADの原因であるのか、またはADが進行した結果、未成熟細胞が減少したり、成熟が抑制されたのか、今回の実験のみからは因果関係は不明であり、今後のさらなる研究の進展が期待されます。

まだ神経新生論争に決着がついたとは言えないものの、90歳に近い高齢者の脳においても、記憶を担う海馬で神経細胞が新生することが最新の研究により示されたことは明るいニュースといえるでしょう。
運動、知的刺激、ストレス低減など、海馬の神経細胞の増加や死滅抑制に有効であることを少しでも習慣化してみてはいががでしょうか。