ダンスと脳の関係

佐藤洋平

ダンスが脳にいい(イメージ)
出典元:pixabay.com

認知症予防にダンスが良いとするエビデンスがいくつかありますが、ダンスが脳のどの領域を活性化するかを調査した論文とダンスの専門家の脳機能レベルを調査した論文を紹介します。

踊りの上手な人の脳

世の中には踊りの上手な人とそうでない人がいますが、脳科学的にこれらの違いはどのように捉えることができるのでしょうか?

今回取り上げる論文(1)はダンスに関わる脳機能について調べたものです。

ダンスには様々な要素が絡んできますが、この研究ではダンスの大事な3要素を

①メロディに同調させて動く
②リズミックに動く
③パターン化された動きで動く

とし,そのそれぞれについて対照実験を行いながら脳のどの領域が関係しているかについて調べています。

実験ではタンゴのステップを踏んでいる時の脳活動を調べており、結果は

①のメロディへの同調では小脳が
②のリズミックな運動では大脳基底核(被殻)が
③のパターン化された動きでは頭頂葉上部が関係する

ことが示されています。

ダンスの上手な人はこれら3つに関わる脳領域をうまく繋げられる人なのでしょう。

ダンスの専門家の脳

もう1つ取り上げる論文(2)は高齢者の運動機能を比較したものですが、この研究では社交ダンスの専門家(高齢者)とそうでない高齢者を比較しています。

一般にダンスは認知症予防効果が高く、高齢者がダンスの練習を行うことで身体機能はもとより触覚、認知機能が改善されることが知られています。

この研究ではダンスの練習をすればするほど、さらに改善するのではないかという仮説のもと、プロフェッショナル級のダンス歴がある高齢者の身体機能、認知機能を調べています。

しかし意外なことにダンスと関連する運動機能は確かに良かったものの、そうでない触覚や認知機能については普通の高齢者と大きな違いがなかったことが示されています。

このようなことになった背景として、一般に脳は慣れない活動に対しては大きく反応するものの、慣れてくるとその反応も乏しくなることが知られており、プロフェッショナル級のダンサーでは、ダンスが新奇な刺激とはならず、それゆえ認知機能への波及効果も乏しかったのではないかということが述べられています。

認知機能の維持という面では、刺激量が多くかつ新奇であることが重要だということであり、一般人の多くの場合、ダンスは普段経験がないので新奇であり、複数の脳領域を使うので刺激量も多くそれに当てはまるわけです。

ダンスに限らず複数の脳領域を使う運動に、一定期間ごとに次から次へと取り組んでみることが認知機能維持に良いのかもしれません。

【論文1要旨】
ヒトがダンスしている時の脳活動についてPETを用いて測定を行った。

ダンスにおける主要な要素である音楽への同調,リズム,定型的な動きについて関連する脳領域を調査した。実験ではアマチュアダンサーに仰向けでタンゴのステップを踏ませる条件と対象条件にて比較検討した。

結果、音楽へ同調している時と自分のペースで行うときの比較では同調している条件で小脳中部の前部領域に強い活動が見られた。

規則的なリズムでステップしている時とイレギュラーなリズムでステップしている時では前者のほうで右被殻に強い活動が見られた。

規則的に足を動かす時と単に筋収縮を促した時では前者のほうで内側上頭頂葉に強い活動が見られ空間認知において固有受容覚と体性感覚の統合が関与していることが考えられた。

近年発表された単純でリズミックな運動感覚的な課題を用いた研究に示されているようにダンスにおいても様々な機能に関わる領域が連結されていることが考えられた。

Cereb Cortex. 2006 Aug;16(8):1157-67. Epub 2005 Oct 12.
The neural basis of human dance.
Brown S1, Martinez MJ, Parsons LM.
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【論文2要旨】
基礎体力は日々の生活を自立して行う能力を維持するために重要であることが知られている。

様様な研究から高齢者が数年間ダンスの練習を行うことでバランス能力や姿勢だけでなく、触覚、運動能力、認知機能に改善が見られることが報告されている。

このことからより集中的にダンスの練習を行う高齢者はよりこれらの改善効果が得られることが考えられる。

本研究では社交ダンスの専門家である高齢者と運動歴のない高齢者の姿勢、バランス能力、反応時間、運動能力、触覚、認知機能の比較を行った。

結果ダンス専門家はダンスと関連する姿勢能力やバランス能力、反応時間では対照群と比較し高いパフォーマンスを示したが、それ以外の項目では有意差は認められなかった。

これらのことから良好な結果を引き出すための適度な介入量があることが考えられた。

http://www.tanzen.de/…/adtv_tanzen_und_gesundheit_balance_s…
J Aging Res. 2011; 2011: 176709.
Published online 2011 Sep 25. doi: 10.4061/2011/176709
PMCID: PMC3179891

出典:脳科学リハビリテーション