運動習慣がアルツハイマー病を予防する〜久山町研究より

大塚真紀

高齢者も運動を(イメージ)
出典元:pixabay.com

運動が認知機能に好影響を与えることは何度かとりあげてきました。運動は日本人の高齢者にとって、アルツハイマー病を予防する効果があるとする、長期にわたり調査を続けてきた久山町研究の1つをご紹介します。

運動がもたらす健康効果

運動が健康によいことは、よく知られています。運動には有酸素運動と無酸素運動があり、健康にとって推奨されるのは有酸素運動です。有酸素運動とは、ウォ―キングやジョギングなどのような少し息があがるような運動のことです。無酸素運動とは、短距離走のような短時間で体に強い負荷がかかるような息が切れる運動のことです。

有酸素運動を行うと、体の中の余分な脂肪や糖分が燃焼するので、肥満や糖尿病の方には治療の1つとして運動療法が行われています。また、狭心症などの心血管疾患や高血圧の方にも継続的な運動が推奨されています。

運動は、身体的効果だけでなく精神的効果もあります。運動することによってストレスが軽減され、落ち込むような気分を解消できたり、夜に十分な睡眠をとれるようになります。

運動と認知症の関係とは

運動と認知症に関する研究も、すでにいくつか報告があります。運動をすると脳の血流が増加し、新しい血管が増えます。また、脳神経の伝達物質が増えて、脳の神経細胞が活性化されると考えられています。

マウスなどの動物を対象とした研究では、認知症の原因と考えられているアミロイドベータとよばれ、脳に蓄積する異常タンパクの量が運動によって減ることがわかっています。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15858047)

一方で、ヒトを対象とした研究でも、運動によって脳の中で記憶に関わるといわれる海馬や前頭葉などの容量が増えたことが明らかになっています。(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21282661

高齢者を対象とした研究では、週に12時間のウォ―キングか4時間のランニングをしていると、認知機能の低下率が20%低くなることがわかっています。(http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=199487

なかには、運動が認知機能の改善に効果がなかったとする報告もありますが、研究を行っている期間が5年以内などと短く、運動の認知症予防効果を正しく評価できていないのではないかといわれています。

今回紹介するのは、日本人を対象とした、17年間という長期にわたる研究で、運動の認知症に対する予防効果をみています。

日本人の高齢者も運動をするとアルツハイマー病予防に

日本の研究チームは、日本人高齢者においても運動がアルツハイマー病予防に効果的であることを2016年3月に「European Journal of Epidemiology」誌に発表しました。

今回の研究は、65歳以上で認知症と診断されていない日本人803名を対象に、17年間にわたり運動が認知症予防にどのように影響するか観察したもので、今までも多くの日本人を対象としたデータを発表している久山町研究の1つです。久山町とは福岡県にある地域のことで、久山町研究とは久山町の住民を対象に脳卒中や心血管疾患などに対する調査を1961年から続けているものです。(参考:nounow「久山町研究とは?~認知症予防のデータになった健康意識の高い町

研究では、週に1回以上の運動をしている活動群と運動をしていない非活動群にわけられ、長期的な認知症やアルツハイマー病の発症率が検証されています。

17年間の間に認知症を発症した方は291名で、アルツハイマー病は165名、血管性認知症は93名、他の認知症が47名でした。
運動をしていない非活動群と比べると、定期的に運動をしている活動群はアルツハイマー病の発症率が低いことが明らかになりました。しかし、血管性認知症や他の認知症においては、運動による明らかな予防効果は認められませんでした。

今回の研究から、日本人においてもアルツハイマー病予防に運動が有効であることが明らかになりました。
日本人を対象にしており、17年という長期間にわたり研究を行っているので貴重な研究結果といえますが、運動に関しては対象者へ聞くことによって情報を集めていることや日々の生活での運動量は考慮できていないことなどが研究の限界と考えられます。また、週に1回以上の運動量でも、週5日あるいは週1日などの運動量の差が認知症予防効果に与える影響に違いをもたらすかどうかも不明です。

運動はできれば毎日続けることがよいとされていますが、体調や用事によって難しいこともあります。今後の研究で、認知症予防に必要な運動量などについて明らかにすることが期待されます。

<参考論文・参考資料>
Eur J Epidemiol. 2016 Mar;31(3):267-74. doi: 10.1007/s10654-016-0125-y. Epub 2016 Feb 8.
The long-term association between physical activity and risk of dementia in the community: the Hisayama Study.
Kishimoto H, Ohara T, Hata J, Ninomiya T, Yoshida D, Mukai N, Nagata M, Ikeda F, Fukuhara M, Kumagai S, Kanba S, Kitazono T, Kiyohara Y.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26857126