高齢者の体力が向上!運動が認知機能に与える影響は?

工樂真澄

高齢者の体力向上(イメージ)
出典元:pixabay.com

75歳以上の体力・運動能力が過去最高水準に達したとのことです。今回はこの結果に関連して、運動が高齢者の認知機能に与える影響についての論文をご紹介します。

高齢者の体力が過去最高

今月の「体育の日」にあわせて、スポーツ庁が2015年度の「体力・運動能力調査」を公表しました。

調査結果から65歳以上の男女で、握力、上体起こし、開眼片足立ちなどの「新体力テスト」の成績が年々向上しており、特に75歳から79歳の男女では、過去最高の成績だったことがわかりました。
http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/toukei/chousa04/tairyoku/kekka/k_detail/1377959.htm 

また週に1日以上運動している高齢者は運動していない高齢者より結果がよく、過去の運動経験の有無は結果に大きな影響を与えていませんでした。

「現在の」運動の習慣が体力の維持により重要なことが示されたわけですが、運動を習慣づける高齢者が増えてきていることは非常に良い傾向ですね。

運動が認知機能に与える影響は?

アメリカのボーリング・グリーン州立大学のダービー教授らのグループは2015年、運動が高齢の女性の認知機能に与える影響について論文を発表しました。

年をとると反応速度や集中力、作業の正確さなどの「実行機能」が低下することは誰しも感じるところです。これらは脳の「前頭葉」や「頭頂葉」と呼ばれる領域が主に行う機能ですが、年をとると脳も生理的に変化して機能が低下します。しかし、最近の研究によれば、このような「脳の老化」は、定期的な運動によって遅らせることができるようです。

実験は60歳から75歳までの女性ばかり11人を対象に行われました。女性は閉経後のホルモン変化によって、男性よりも認知機能に影響が出やすいと言われています。あらかじめ体力測定により、各人の「最大酸素摂取量」を測定しておきます。この値に従って、2種類の強度の有酸素呼吸運動をそれぞれ20分間、行ってもらいました。

それぞれの強度の運動の前後、さらにエクササイズ終了から30分後に認知機能テストを行い、その成績や反応速度を比較しました。認知機能テストは「フランカー課題」と「d2テスト」です。フランカー課題とは、画面に表れた一列に並んだ5つの矢印のうち、真ん中の矢印の向いている方向を、ボタンで選ぶというものです。またd2テストとは、文字列の中からダッシュ記号(´)が2つ付いた「d」の文字を選び出す、というものです。

実験の結果、運動の強度に関係なく、エクササイズ後のほうが、認知機能テストの正解率が上がり、また反応速度も向上することがわかりました。さらにこの傾向は、普段からエクササイズを行っている人のほうが、効果が出やすいことがわかりました。

脳は全身の臓器の中でも、特に酸素の消費量が激しい臓器です。血流がもし完全に止まって酸素が供給されなくなると、たった数分で取り返しのつかないような損傷が生じます。有酸素呼吸運動をすると、血中の酸素濃度が上がります。今回の実験のように、たった1度のエクササイズでも認知機能への効果があることから、継続的に有酸素呼吸運動をすることで、脳の組織を長持ちさせ、可塑性や耐久性を保つことができるのだと考えられます。

運動習慣は遺伝子の働きにも影響する

スポーツ庁の報告によると、高齢者の体力が向上する一方で、30代、40代の特に女性で、体力の低下が見られます。この年代は子育てや仕事などで、運動する時間を十分にとれないことが背景にあるのでしょう。

最近発表された別の研究によれば、運動することで、約3000以上もの遺伝子の働きに違いが出る可能性が示されています。今回ご紹介した論文のように、運動習慣のある人のほうが、認知機能への成果は出やすくなります。運動はいつ始めても、遅くありません。この秋、まずはウォーキングから始めてみませんか?

Effects of Acute Aerobic Exercise on Executive Function in Older Women.
Peiffer R et al. J Sports Sci Med. 2015 Aug 11;14(3):574-83.
The Impact of Endurance Training on Human Skeletal Muscle Memory, Global Isoform Expression and Novel Transcripts.
Maléne E Lindholm et al. PLOS Genetics, 2016; 12 (9)