ランナーに朗報!走ることで脳が変わるってホント?

工樂真澄

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出典元:pixabay.com

ブームが落ち着いたとはいえ、ランニングやジョギング、ウォーキングをしている人を見かける機会は昔よりずっと多くなりました。今回とりあげる論文によると、走ったり歩いたりといった動作は、思いのほか脳によい影響を与えているようです。

長距離ランナーに特徴的な脳

アメリカ、アリゾナ大学のRaichlen博士らは、長距離ランナーの脳について調べた論文を2016年に発表しました。研究に参加したのは18歳から25歳までの若者22人で、そのうち半分は大学のクラブなどで長距離走の競技選手として、日頃から練習や活動を行っています。残りの半分は、定期的にはスポーツをしていない若者です。体格や学歴など、スポーツ以外のことに関しては、両グループ間にはほとんど差がありません。

運動が脳に与える影響については、このサイトでも何度かご紹介しています。たとえば、心臓や血管が丈夫になることで起こる血流の変化や、ストレス発散によるホルモンや神経伝達物質の分泌の変化が、脳によい影響を与えます。今回の論文はさらに、本格的にスポーツに取り組んでいるアスリートに起こる変化を調べたものです。一口にスポーツと言っても様々な競技があります。アスリートは特定の競技に専念することで、その競技を行うために相応しい筋肉や技術が発達し、さらに脳にも特徴的な変化が起こると考えられます。

たとえばプロテニスプレーヤーは、ボールの位置や速さを一瞬で読み取り、そのボールを狙った場所に的確に打ち返します。この動作の間にも脳の中では、目がとらえた情報を判断する領域から、動きを生み出す領域へと情報の受け渡しが行われています。テニスプレーヤーは繰り返し訓練することで、一般の人よりもこの領域同士が強く「繋がる」と考えられます。

博士らが興味をもったのは、マラソンなどの長距離走のランナーの脳です。テニスやゴルフ、体操などと比較すると「走る」という行為は単純で、それほど脳の様々な領域が連動する必要がないように思えます。しかし、その結果は意外なものでした。

「走る」は単純なようで単純ではない

博士らは機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、脳の異なる領域の間の「繋がり」を調べ、両グループ間で比較しました。博士らが調べたのは安静時の脳の様子です。運動中や課題を解くために脳が積極的に働いている状況ではなく、静かにリラックスした状態の脳を調べるほうが、互いの領域の連結の強さがわかりやすくなるからです。

解析の結果、アスリートの脳では「前頭頭頂ネットワーク」とよばれる領域が、ワーキングメモリーに関わる領域と、強く連結していることがわかりました。これはスポーツをしていない若者の脳には見られませんでした。「前頭頭頂ネットワーク」は協調して働く多領域から成るネットワークで、動きを計算したり、意図したりといった「実行機能」に深く関わる領域です。この領域がワーキングメモリーに繋がっているという結果から、単調に見える長距離走も、実は一瞬ごとに状況をとらえ、判断するという能力を必要とすることが示唆されました。

また以前の研究から、高齢者が運動することで「前頭頭頂ネットワーク」が活性化され、認知機能の向上につながると報告されています。年をとると脳の連結が少なくなることが知られていますが、今回の結果と合わせて、有酸素呼吸運動を取り入れることで、認知機能の向上とともに、脳の多領域が「繋がる」可能性があります。

長く続ければ脳は変わる

今回の結果から、ランニングやウォーキングは筋肉や骨を丈夫にするだけでなく、認知機能にもよい効果をもたらすことがわかります。この論文は少数の若者を対象に得た結果であり、さまざまな年齢層の人や、また週末ランナーにも当てはまるのかについては、さらなる研究が必要です。連結の強さは、どれだけ多くの場面で、互いの領域が同時に活性化されたかを反映しているとされます。スポーツだけでなく、ダンスや楽器演奏でも、継続して繰り返し行うことで、関連する脳領域の連結はさらに強固なものになると考えられます。

ご紹介した論文
Differences in Resting State Functional Connectivity between Young Adult Endurance Athletes and Healthy Controls.
Raichlen DA et al. Front Hum Neurosci. 2016 Nov 29;10:610.