運動すると記憶力がよくなる仕組みの解明に一歩前進

工樂真澄

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「記憶」に興味をお持ちの方なら「海馬」という名前をご存じでしょう。海馬は脳の中心近くに位置し、その形が神話に出てくる「馬と魚」を組み合わせた動物(ヒポカンパス)に似ていることから、この名前で呼ばれます。今回は運動による海馬の変化と、記憶力への影響を調べた論文をご紹介します。

記憶力は海馬の大きさだけによるのではない

アメリカのイリノイ大学Schwarb博士らのグループは、運動による海馬の構造の変化が記憶力に影響する可能性を見出し、2017年に発表しました。子どもや高齢者などの研究から、海馬の構造、とくに大きさが記憶力に影響していると言われています。しかし、これは若者や成人では必ずしも当てはまらず、記憶力を決めている要因は、海馬の大きさだけではないとも考えられています。また、運動によって記憶力がよくなることが報告されていますが、そのメカニズムは明らかではありません。

博士らの研究には、18歳から35歳までの51人の健康な成人が参加しました。測定に使われたのはMRE (Magnetic Resonance Elastography)という方法です。この方法では、頭皮の上から脳に低周波の振動を与えて、その伝わり具合から脳の組織の弾力性、さらには組織の構造や状態を推測することができます。被験者の運動能力はランニングマシンを使って得られた「最大酸素摂取量」から推定しました。さらに、記憶力の測定には以下のようなテストを行ってもらいました。

まず画面に6つの物が現れるので、それらの位置関係を覚えておきます。画面がいったん閉じて、再び先ほどの物が最初とは異なる位置関係で現れます。被験者は記憶を頼りに、最初の画面のように6つの物を並べ直します。

実験の結果、海馬の弾力性と記憶力には正の相関関係があり、海馬に弾力性がある人ほど、記憶力がよい傾向があることがわかりました。しかし、海馬の大きさと記憶力の間には、関係性を見いだすことはできませんでした。また、運動による効果を調べたところ、酸素摂取量が多い人ほど海馬の弾力性があることがわかりました。しかし、酸素摂取量と海馬の大きさには、関係がありませんでした。以上の結果より、運動によって海馬の弾力性が増し、その結果として記憶力がよくなる可能性が示されました。

継続的な運動で記憶力が変化する可能性がある

これまでも運動によって、認知機能や記憶力が向上したり、改善したりすることは指摘されていました。今回ご紹介した研究では、海馬の弾力性によって記憶力に違いがあることが示唆されました。運動によって海馬の組織に構造変化が起こり、これが記憶力に結びついているのだと想像できます。

今回の研究からわかるように、記憶力をアップしたいのであれば、机に向かってただ本を眺めているよりも、運動習慣をつけて運動能力をアップしたほうが効果的かもしれません。

ご紹介した論文
Aerobic fitness, hippocampal viscoelasticity, and relational memory performance.
Schwarb H. et al, NeuroImage. 153,pp179-188, 2017 .

参考サイト
MRE :http://bme.sys.i.kyoto-u.ac.jp/gaiyou_mre/index.html