「身体活動を増やしても認知症リスクは低下しない」とする研究

鈴木邦義(ペンネーム)

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運動と認知症発症リスクの関係についてイギリスで行われた研究結果を発表した論文をご紹介します。

運動と認知症

人間の活動をコントロールしているのは脳です。その脳がうまく働かなくなれば、精神活動も身体活動もうまく運ばなくなります。認知症とは、色々な原因で脳の細胞が働かなくなってしまうために精神的機能においてさまざまな障害がおこり、生活する上で支障が出る病気です。

活動的なライフスタイルや運動習慣が、高齢者の心身の健康、認知機能の維持・増進によい影響を与えることは、これまで数多く報告されています。脳が身体をコントロールする、という一方通行の関係ではなく、密接に相互に影響し合っているのです。

最近では、認知症予防のためにさまざまな対策が講じられています。たとえば運動もそのひとつです。運動によって生活習慣病を予防することは糖尿病や脳梗塞・心筋梗塞のリスクを下げるために有用であることが分かっています。糖尿病などによって血管がダメージを受けると、認知症になるリスクが上がるため、そうした観点から運動することが認知症予防によいと一般的には認知されていることと思います。

しかし、今回、身体活動の認知症予防効果を否定するデータが出てきましたので紹介致します。

中年期の身体活動は認知症を予防しない

今回の検討はイギリスで行われたもので、1985年から1988年にかけて登録された10308名の35-55歳の参加者に対して、平均27年間にわたって身体活動の程度と認知機能について評価したものです。

結果としては以下の通りです。

まず、参加者の中で、329名が偶発的に認知症と診断されました。そして、認知症と診断された人と診断されなかった人を比べた時に、身体活動量と認知機能は全く統計的に関連がなかったという結果でした。

ただし、認知症を発症する人は、認知症と診断される9年前から身体活動量の低下が認められたということです。また、その差は認知症と診断される時点ではさらに大きくなっていたとの結果でした。一方、診断の10年前までは、認知症を発現した参加者と発現しなかった参加者のおける身体活動量は同程度であったと述べています。

この結果から、著者らは、認知症を発症する人の、診断前の身体活動の低下は、認知症の原因になっているわけではなく、軽度認知症の初期症状なのではないかと推察しています。

つまり、認知症の人は身体活動量が減ってくるので、統計上そう見えるだけで、全く影響は無いのではないかという話になるということです。運動すると認知症が防げる可能性があるとした過去の研究の多くが、短い観察期間における認知症の運動効果を調査したものであり、数十年の長期に及ぶ影響を考慮していないという点は、確かに重要な観点だと言えると思います。

このように、観察研究の結果はどのような群をどのように観察するかによって結論が変わってきます。たとえば運動量の評価の仕方を変えることで、やはり関連性があると結論付けられる可能性もあるでしょう。今後さらに違った研究デザインでの報告が出れば、「認知症予防に運動をする」という説への理解が深まることでしょう。

適度な運動はたとえ認知機能に直接いい影響を与えないとしても、多くの健康的な効果をもたらします。歩行速度が寿命と関係するとも考えられていますし、筋肉量が多い方が転倒して骨折するリスクも減るでしょう。そうしたことから、適度に運動する習慣をつけておくことで将来的に介護施設へ入所する時期を遅らせられる可能性はあります。運動することの健康への効果については注目されている分野であり、今後の検討が待たれるところです。

今回ご紹介した論文
Sabia S et al. Physical activity, cognitive decline, and risk of dementia: 28 year follow-up of Whitehall II cohort study.
Sabia S et al.
BMJ 2017 Jun 22; 357:j2709.