運動が脳に与える影響

nounow編集部

運動をすることが脳によい(イメージ)

運動が脳の認知機能維持に効果があるとよく聞きますが、具体的に脳の中で何が起きていて、どのような運動がより効果があるのでしょうか?その辺りを簡潔に整理してみました。

定期的な運動が脳によい影響を与える

運動が脳に与える影響に関する研究は多数報告されています。ハーバード大学の疫学研究者ジェニファー・ウーブによれば、70歳から81歳の女性18,766人の認知能力の関係を分析した結果、週に12時間のウォーキングか4時間のランニングをしていた人は、記憶や知能テストで能力が衰える確率が20%低かったとしています。また、この調査では週に1時間30分のウォーキングでも脳の機能を保つ確率が上がるとています。

運動をすることによって、具体的に脳の中ではどのような変化が起きているのでしょうか?神経科学者のアーサー・クレーマーの調査によれば、60歳から79歳の人たちに、ランニングマシンで週に3回、1時間の運動を6ヶ月間継続させたあと、MRI検査をすると、前頭葉と側頭葉の皮質容量が増えたとしています。脳の中で、新しい血管ができたり、新しい神経細胞が生まれ、その結果、新しいネットワークができたためそのような結果になったと推測できるでしょう。

脳の中で起こること

運動をすることによって脳が活性化する(イメージ)
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運動による脳への影響で大きなことは2つあります。

ひとつは運動によって脳血流が増えることです。脳血流とは心臓から脳へ入っていく血液量で、血液量が増えれば、血液の中に含まれる酸素や脳の唯一のエネルギー源であるブドウ糖もよりたくさん運ばれるので、脳は活性化されます。

もうひとつは、運動によって様々な脳内物質(神経伝達物質)が増えてくることです。神経伝達物質は脳の中の潤滑剤でもあり、経済におけるお金と同じ意味をもちます。これが増加し、適正に分泌されると、脳は十分に能力を発揮することができ、脳の衰えを防ぐことにもなります。

運動によって増える脳内物質は幸福感を作り出すエンドルフィン、自尊心の回復をもたらしたり活動性がアップするノルアドレナリン、意欲や前向き性格、幸福感に関係のあるドーパミンなどです。

さらに、定期的な運動で脳内物質だけでなく、ドーパミンの受容体を作る酵素が増えて、報酬系の中枢の受容体が増えるために、より強い満足感を得るようになります。

うつ病になると不足するといわれるセロトニンも運動によって増えます。これが増えることによって精神的な安定が保たれます。セロトニンはストレス物質であるコルチゾールを中和し、その働きを抑制するので、ストレスに弱くなっている脳を保護するように働きます。

より複雑な運動

複雑な体の動きほど脳にいいという報告もあります。複雑に体を動かすには複雑な神経回路が必要になるので、複雑であればあるほど神経のネットワークを強く広げていくことになります。たとえばダンスという複雑な動きになるほど、脳にはよりプラスになるということです。

2003年にアルバートアインシュタイン大が発表した研究では、75歳以上の方469名を5年以上調査し、余暇の活動と認知症発症の関係を調べたところ、ダンスが最も有効という結果でした。

中でも特に社交ダンスが認知機能維持に有効といわれますが これは姿勢を良くして異性や周囲のスペースに気を配りつつ音楽にあわせてダンスするという極めて複雑な要素が求められるからでしょう。

デュアルタスク

国立長寿医療研究センターが開発した認知症予防の「コグニサイズ」は中強度の運動と認知課題を同時に行うトレーニングで、例えば100から3を引き算しながらウオーキングを行ったり、しりとりをしながら踏み台昇降したりなど様々なバリエーションがあります。
コグニサイズとは? | 国立長寿医療研究センター

フィットネス大手のルネッサンス社が開発した「シナプソロジー」も2つのことを同時に行う、左右で違う動きをするなど普段慣れない動きで脳に刺激を与える運動プログラムです。いずれも運動と何らかの課題を組み合わせたデュアルタスクであり認知機能維持・向上に有効です。

まずは何か定期的に行う運動を習慣化する、なかなか時間がとれなければ引き算しながらウォーキングしてみるなどからはじめてみてはいかがでしょうか?

(出典)Jennifer Weuve et al., Physical activity, including
Walking and Cognitive Function in Older Women, JAMA, Vol.292, pp1454-61.

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