音楽の力でアルツハイマー病の興奮症状が改善

工樂真澄

歌い踊る音楽がよい(イメージ)
出典元:pixabay.com

アルツハイマー病の症状をおさえるとする様々な非薬物療法があります。今回紹介する論文によると音楽療法がアルツハイマー病の興奮症状に有効とのことです。ただし定期的・継続的に行う必要があり専門家育成が課題です。
(監修:医師 大塚真紀)

音楽療法がアルツハイマー病に有効とする論文

認知症の原因疾患として最も多いのがアルツハイマー病です。薬による治療を行うのが一般的ですが、高齢者では特に副作用が多いことから、より安全で効果的な治療法が模索されています。

そこで注目されているのが「非薬物療法」です。運動療法や認知刺激療法などいろいろな種類がありますが、体系立ててその効果が評価されているわけではありません。

このたび様々な非薬物療法の有効性の評価を総括した論文が、国際的学術誌に発表されました。この論文によると、数ある非薬物療法の中でも、「音楽療法」はアルツハイマー病の症状を改善する効果があるそうです。

アルツハイマー病の興奮症状にきく非薬物療法

認知症の典型的な症状として「もの忘れ」などの記憶障害がよく知られています。しかし実際には、家族へ暴言を吐いたり、暴力をふるったりしたことが原因で受診するケースが多く見られます。イライラや暴力などの「興奮症状」は、アルツハイマー病を起因とする認知症で特に多く見られます。

このような行動異常の治療では、患者さんの立場や気持ちを理解した非薬物療法を取り入れることで薬の効果が高まると考えられています。

今回の論文は、非薬物療法のランダム化比較試験を学術文献データベースで網羅的に検索して、総評を加えています。

「光療法」は人工的な光により起きている時間を調節して、夜間の行動などを管理する治療法です。二つの臨床研究がありましたが、そのどちらでも対象群より興奮症状が改善しているとは認められませんでした。また臨床試験の結果、「アロマセラピー」にも治療効果は認められませんでした。

「セラピューティック・タッチ」は手かざし療法とも訳され、施術者が患者さんに直接触れることなく、手をかざしてエネルギーを送るというものです。アメリカなどでは根強く残っているようですが、試験の結果、アルツハイマー病の症状改善の効果は認められませんでした。

その他にも、配偶者や親類などによる「支持的精神療法」を受けたグループでは、わずかながら運動機能の改善がありましたが、この方法だけでは興奮症状に効果があるとは認められませんでした。

音楽のもつ力が明らかに

歌い踊ることが認知症の進行を抑える(イメージ)
Photo by pixabay

今回の調査で唯一効果が認められたのが「音楽療法」です。音楽療法とはその名の通り、音楽を使った治療法です。

歌ったり踊ったりなど「参加型の音楽療法」を行ったグループでは、比較対象として行ったCDプレーヤーから流れる音楽を聴かせるだけの受動的音楽療法を行ったグループ、または音楽療法を行わなかったグループよりも、行動異常が有意に軽減しました。

この方法では妄想や感情障害、不安や恐怖などの精神症状の改善も見られました。しかし改善した状態は長く続かず、音楽療法を終えて数週間経つと、また以前のような行動異常が見られるようになりました。このことから音楽療法は定期的、また継続的に行う必要があるようです。

理想的には施設などで、専門の音楽療法士によるグループでの施術が効果的なようです。週に数回の30分から1時間のセッションで、個人的に思い入れのある曲に合わせて歌ったり、手をたたいたりすることで、興奮症状の改善が期待できます。

音楽療法士など専門家の育成が不可欠

誰にでも心の奥底に刻み込まれた、忘れられない曲があるでしょう。認知症の患者さんに思い出の曲を聴かせると、まるで昔に戻ったような表情をすることがあるといいます。曲調や歌詞だけでなく、その曲にまつわるエピソードや思い出が蘇るのかもしれません。さらに詳しい方法論の確立と、施術を専門に行う音楽療法士の育成が、今後の課題です。


(出典)
Optimal nonpharmacological management of agitation in Alzheimer’s disease: challenges and solutions. Millán-Calenti JC et al.  Clin Interv Aging. 2016 Feb 22;11:175-84. PMID:26955265

(参照)
標準精神医学 第6版 医学書院
認知症疾患 治療ガイドライン 2010 医学書院