認知機能とボキャブラリーには驚きの関係があった!?

工樂真澄

語彙力と認知力(イメージ)
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最近、人と会話していますか? 家族や友人、仕事仲間などと交わす日々のコミュニケーションは、実は私たちの脳の健康を保つためにとても重要なのです。今回はボキャブラリーと認知機能に関する研究をご紹介します。

書き言葉と話し言葉に、認知機能が表れる

奈良先端大学の荒牧博士が、和歌山大学、京都大学の研究者とともに2016年に発表した論文によると、話し言葉に使われるボキャブラリーの数は、認知機能の衰えの指標になるかもしれないとのことです。

博士らは平均年齢78歳の高齢者22人に、最近身の回りで起こった最も幸せだった出来事について、まず文章を書いてもらいました。

その後で一人一人に面談して、文章に書いてもらった内容と同じ出来事について、今度は口頭で話してもらいました。

参加者はあらかじめテストにより、認知機能に問題のないグループと、認知機能の衰えがみえるグループに分けられています。

この調査の目的は、認知機能とボキャブラリーの関係を探ることです。単純に考えると認知機能の衰えとともに、なかなかふさわしい言葉が見当たらず、同じ単語を何度も繰り返すなど、語彙は減ると考えられがちです。実際に認知機能障害を持つ人では、ボキャブラリーの数が著しく少なくなることがわかっています。

しかし今回の調査の結果は、予想を裏切るものでした。

軽度の認知障害で饒舌になる

今回調査した両方のグループでは、書き言葉のボキャブラリーの豊富さに大きな差は見られませんでした。書いてもらった文章を解析してみると、語彙の豊富さや難解度に関して両グループ間でほとんど差がなく、軽い認知機能の衰えは文章を書くのにそれほど影響がないことがわかりました。
しかし興味深いことに、話してもらった場合には大きな差が出ました。認知機能が衰え始めたグループでは、正常なグループよりもボキャブラリーが豊富、という結果が得られたのです。

これは何を意味するのでしょうか。

文章を書くときは、たいてい頭の中で整理してから書き始めます。今回の調査でもそうですが、わからない言葉があれば辞書を見たり、他の人に尋ねたりもできます。書き終わった後で書き直したりすることもできますから、それほど差が出ないのかもしれません。

しかし話し言葉は違います。話すという行為は選ぶ語彙も含めて、声の高さや話し方まで、書き言葉よりもその人らしさが表れやすいともいえます。

認知能力の衰え始めた人のボキャブラリーが著しく豊富になるというのは、もしかすると話すことに対して、脳で自制が効かなくなっていることの表れかもしれません。普通ならば、少し改まった場であったり、それほど親しくない相手と話す場合には、頭の中で整理してから話し始めたり、言葉を選んだりします。たとえ親しい相手であっても、気持ちよい会話をしようと思えば、自然と言葉を選んでいるはずです。それこそが脳を鍛えていることになるのです。

しかし初期の軽度の認知症になると、頭の中に浮かんだことを止めどなく口にするようになり、その結果として語彙が増えるのではないでしょうか。

もしこの段階で認知症を発見できれば、その後の認知能力の衰えを効果的に改善できるのではないか、と博士は付け加えています。

コミュニケーションの重要性

今回の調査は高齢者に対して行われたものですが、若い方でもここから得られることがあるのではないでしょうか。

毎日決まった人としか会わない、また日頃コンピューターと向き合ってばかりで、あまり人とコミュニケーションをとる機会がない、という方は注意したほうがいいかもしれません。
人は言語というコミュニケーションツールを持つ唯一の生物です。裏を返せば、このツールを使うことで人らしさが保てるような脳の構造になっているのでしょう。「あまり人と話す機会がないなあ」という方は、趣味を見つけたり、新たに習い事を始めたりして、ぜひ話す機会を作るようにしてみましょう。

Vocabulary Size in Speech May Be an Early Indicator of Cognitive Impairment. Aramaki E, Shikata S, Miyabe M, Kinoshita A. PLoS One. 2016 May 13;11(5):e0155195.PMID: 27176919