ピアニストの脳を覗いてみたら...習い事は早く始める方がいいワケ。

工樂真澄

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出典元:pixabay.com

子どもの習い事が多様化する一方で、ある調査によれば、現在でもピアノやスイミングが最も人気があるそうです。大人になってから「幼い頃の習い事が役立っている」、と思う機会はあまりないかもしれませんが、今回ご紹介する論文によれば、その影響は知らず知らずのうちに「脳」の構造に表れているようです。

ピアニストの脳に見る習い事の影響

スペインのバルセロナ大学のVaquero博士らは、2016年、ピアニストの脳に特徴的な構造について報告しました。

彼らが興味を持ったのは、ピアノを習い始めた年齢によって、脳の構造に違いがでるかどうかです。研究に協力したのは36人のプロのピアニストで、そのうちの21人は7歳になる前に、残りの15人は7歳より後に、ピアノを習い始めました。習い始めた年齢以外には、現在の練習量や技術に差はほとんどありません。対照グループは17人の大学生で、特別に音楽のレッスンを受けたことはありません

研究グループは脳のMRI(磁気共鳴画像)から、脳の各領域の形態解析を行いました。この方法では「灰白質」の体積を比較して、その人に特徴のある領域を知ることができます。灰白質とは、神経細胞の「細胞体」と呼ばれる部分が集まっているところで、灰白質が多いほど、神経細胞の数も多いと考えられます。また実験では、実際にピアノを弾いてもらって、その技能との関連も調べられました。

解析の結果、音楽教育を受けていない人に比べて、ピアニストの脳ではいくつかの領域で灰白質の体積が、より大きくなっていました。たとえば、記憶に関わる「海馬」や、感情に関わる「扁桃体」などです。また、聴覚や言語を理解するのに大切な「左上側頭葉」も、大きいことがわかりました。

その反対に、ピアニストのほうが、音楽教育を受けていない人よりも体積が小さい部分もありました。たとえば右の上側頭葉などですが、ここは音を聞いてその情報を処理する過程に関わる領域とされます。

このことより、ピアノのトレーニングによって、脳の各領域がそれぞれ特徴のある変化を起こすことが明らかになりました。

早く始めるほど、脳も順応する

さらにピアニストの脳を、ピアノを習い始めた年齢によって比較したところ、習い始めた年齢が低い人ほど、大脳基底核の「被殻」と呼ばれる部分が、小さいことがわかりました。ピアノの技能としては、早く習い始めた人ほど、特に左手の正確さが増す傾向にありました。

「被殻」は主に随意運動に関わっているとされます。随意運動とは自らの意志で行う動きのことで、被殻を含む領域はスムーズな動きを調節していると考えられています。またこの領域は、習慣や訓練によって動きや技能を得るために欠かせない領域とされます。今回、左手の技能と被殻の大きさに関係が見られたことから、ピアノの技術は脳の特定の部位と関連していると考えられます。また、早く習い始めるほど脳の変化も大きく、それにともなって技術も向上することが示唆されました。

脳は変わる

脳は鍛える時期や、鍛え方によっても変化すると考えられます。もちろん形態的な変化にともなって、パフォーマンスにも差が出ます。今回ご紹介したのはピアニストの脳ですが、同様のことは、小さい時からダンスや体操など、他の習い事をした場合にも起こるのではないか、と推測されます。

幼い頃に通った教室を懐かしく思い出して、久しぶりにピアノを弾いたり、泳ぎにいってみたりしてはどうでしょう。案外すんなりと体が反応することに、自分でも驚かれるかもしれません。

Structural neuroplasticity in expert pianists depends on the age of musical training onset.
Vaquero L et al. Neuroimage. 2016 Feb 1;126:106-19.