絵を描くことは認知症予防になる

大塚真紀

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絵を描くなどの芸術活動が認知症の発症リスクを低下させる可能性があることを発表した論文についてご紹介します。

クリニカルアート(臨床美術)とは

今回紹介する研究では、芸術活動が認知機能に与える影響に対して検討しています。日本では、すでにクリニカルアートといって認知症の方や発達障害が疑われる子ども、メンタルヘルスが必要な大人などに対して、アートプログラムにそって創作活動を行うことが試みられています。

日本臨床美術協会は、クリニカルアートを実施する専門家の養成を行っており、専門的な訓練を受けて合格すると臨床美術士として認定しています。クリニカルアートの内容は、塗り絵、創作物の作成、絵画、陶芸、折り紙など、ひとりひとりに合ったものが選ばれます。例えば認知症の方に、いきなり油絵を描くように指導しても難しいので、まずは塗り絵から始めます。

クリニカルアートの効果は、認知症の予防、認知症の改善、家族間のコミュニケーションの活性化、意欲の増進、発想力や集中力、コミュニケーション力の向上などです。脳を活性化するためには、ただ描く、作るだけではなく、5感を使ってアートを楽しむことが大切だと考えられています。
(出典:日本臨床美術協会HP http://www.arttherapy.gr.jp/about/

クリニカルアートによる病気への改善効果

クリニカルアートは、別名アートセラピーや芸術療法ともよばれています。クリニカルアートは、もともと認知症の改善効果を期待して始められたといわれています。認知症になると物忘れや行動の異常などで周囲から注意されたりすることも多くなり、自信をなくしている方もいます。しかし、クリニカルアートを行うことによって自分で考え、作り上げたという自信になり、充実感を得られるようになります。結果として、認知症で見られるような暴言や徘徊などの症状が抑えられるだけでなく、症状の進行を抑制できることがわかっています。一人だけでなく、グループで作ることにより脳がさらに活性化される可能性もあります。

クリニカルアートは認知症だけでなく、うつ病や発達障害の子どもにも効果があるといわれています。自己表現をうまくできない状態や心にストレスがある状態であっても、アートを通して自分の心の中を外へと表現できるからと考えられています。

絵を描くことは認知症予防になる

アメリカの研究チームは、絵を描くことは軽度認知障害の発症リスクを低下させる可能性があることを2015年4月に「Neurology」誌に発表しました。
研究チームは、認知機能が正常な85-89歳256名に対し、50歳の時と研究登録の1年間に行っていた活動に関する質問票を記入させ、その後4年間にわたって記憶力や空間的能力、言語能力などに関する検査を行いました。研究期間中に121名が軽度認知機能障害を発症しました。

結果を見ると、中年期に芸術、工芸(彫刻など)のような芸術活動または社会活動を行っていた人は、そのような活動を行っていなかった人に比べて軽度認知機能障害を発症する割合が約半分だったことがわかりました。また、80歳代になっても絵を描くなどの芸術や工芸に関する活動を行っている、コンピューターを使用している、と回答した人においても、そうでない人に比べると記憶障害を発症する割合が小さいことが明らかになりました。

今回の研究から、絵を描く、物を作るなどの芸術活動は認知症の発症リスクを低下させる可能性があることがわかりました。
ニューヨークの神経内科医であるGalvin医師は、今回の研究に対し、「1日1個のりんごは医者知らず」という言葉が昔から知られているけれど、これからはりんごを絵に描いたり、りんごを買いに行くために友人と出かけたり、(りんごとかけて)アップル社の製品を使ってコンピューターに触れると認知症を予防できるかもしれないとコメントしています。

<参考論文・参考資料>
Neurology. 2015 May 5;84(18):1854-61. doi: 10.1212/WNL.0000000000001537. Epub 2015 Apr 8.
Risk and protective factors for cognitive impairment in persons aged 85 years and older.
Roberts RO, Cha RH, Mielke MM, Geda YE, Boeve BF, Machulda MM, Knopman DS, Petersen RC.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25854867