音楽と動作学習で脳構造が変化する

工樂真澄

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以前nounowで音楽を聴きながら仕事や勉強をすると効率が悪いという論文をご紹介しましたが、それでは運動や作業など、体を動かす場合に音楽はどのように脳に働くのでしょうか。今回は音楽が動作学習におよぼす影響について調べた研究をご紹介します。

音楽にあわせて体を動かすことが脳にもたらす変化

イギリスのエジンバラ大学、Moore博士らのグループは、動作学習に音楽を取り入れると脳の構造が変化することを見いだし、2017年に発表しました。

たとえばジムでエアロビクスなどされたことがある方は、リズム感のある音楽にのせて運動を行うほうが、全く音楽がない場合よりも、テンポよく、また気分よく続けられることをご存じでしょう。

博士らは動作学習に音楽が与える影響を調べるために、18歳から30歳までの30人の健康な人に協力してもらい実験を行いました。
被験者は全て右利きの人が選ばれました。実験では、利き手ではない左手を使って行う動作を学習してもらいました。

まず、左手の人差し指から小指までを順に1から4と名付けます。訓練課題は数字でたとえば、1-3-2-4-3-1-3-2のように与えられ、その数に対応する指を正確に速く動かすことができるように訓練します。

被験者の半分はさらに、音楽に合わせた訓練を行ってもらいました。
画面にそれぞれの指に対応する丸印が現れます。丸印は音楽に合わせて一つずつ上から流れてくるので、なるべく音に合わせて正しい指で画面をタッチします。これを遅いテンポから早いテンポまで練習します。

1回の訓練は20分で、週に3回、1ヶ月間行ってもらいました。

実験の結果、音楽に合わせて訓練したグループ、音楽を使わなかったグループのどちらも、訓練前よりも左手を使った動作が速く、正確に行えるようになっていました。

次に、音楽の効果を調べるために、脳の画像解析を行いました。

DT-MRIという方法で訓練前と訓練後に脳の神経細胞のネットワークを撮影し、その変化を調べました。
すると、音楽を使って訓練を行ったグループでは、脳の「弓状束」という部分が密になっていました。
弓状束は脳の前と後ろにそれぞれある「言語中枢」を結んでいると考えられています。
この様子は脳の右半球の弓状束だけで観察でき、左半球では変化がありませんでした。
これは、左右の体の神経は、逆側にある脳半球によって支配されているためだと考えられます。

今回の実験では、左手の動作学習を行ったことから、脳の右半球のネットワークが活性化され密になったと考えられます。このような変化は、音楽を使わずに訓練したグループでは観察できませんでした。

以上の結果より、音楽に合わせて体を使った学習を行うと、脳の神経細胞のネットワークに変化が起こることが示唆されました。

リハビリテーションなどへの応用が期待される

今回の実験では、音楽を使ったグループでも使わなかったグループでも、動作そのものの成績に、それほど違いはありませんでした。

しかし、音楽を使って訓練した場合には、脳の構造の変化が起こることがわかりました。

音楽を使った動作学習によって、新たなネットワークが作られ脳の活性化に繋がると考えられることから、今後、脳に障害などを負った患者さんのリハビリテーションなどへ、音楽にあわせた動作学習の応用が期待されます。

ご紹介した論文
Diffusion tensor MRI tractography reveals increased fractional anisotropy (FA) in arcuate fasciculus following music-cued motor training.
Moore E. et al. Brain & Cognition. June 12 2017 doi:10.1016/j.bandc.2017.05.001