なぜ音楽は認知症の症状改善に有効なのか?

佐藤洋平

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イタリアでの音楽療法が認知症患者にどのような影響を与えるかに関する研究をご紹介します。

音楽療法による認知症患者への介入実験

音楽療法というのは随分と歴史が長く、文献上古くは古代ギリシアまで遡れるそうです。

音楽が認知症患者に何らかの効果があるというのは、おそらく経験的に知られていて様々な施設で音楽を通しての関わりが行われていると思います。

しかしながら、音楽は本当に認知症患者に何らかの効果があるのでしょうか?

またあるとしたら,なぜそのようなことが起こるのでしょうか?

今回取り上げる論文は、音楽による関わりが認知症患者にどのような影響を与えるかについて調べたものです。

この研究はイタリアに住む認知症患者59名を対象に行なったもので、片方の認知症患者のグループ(30名)には、週2回・16週間音楽療法を行い、もう片方の認知症患者のグループ(29名)には,同じ期間教育支援やレクリエーション(entertainment activities)を行って、認知症患者の記憶力や問題行動がどのように変化するかについて調べています。

また音楽療法では、リズムやメロディで治療者と同調し(affect attunement)、コミュニケーションを促すような方法で行われています。

また治療効果の判定として、NPIと呼ばれる介護者による精神症状を評価するための方法を用いて、妄想、幻覚、興奮、うつ、不安、多幸、無感情、脱抑制、易刺激性、異常行動の10項目について評価しています。

結果を述べると、治療開始後8週後から明らかな効果が見られ、特に認知症の周辺症状(BPSD)である妄想、興奮、不安、無感情、易刺激性、異常行動に有意な改善が見られたこと、

またその効果が治療終了後4週後も維持されたこと、

しかしながら記憶機能の改善には音楽療法の効果が見られなかったことが示されています。

音楽療法により、認知症の周辺症状が軽減する理由として、認知症患者は外部の刺激に過敏に反応する傾向があるのですが、音楽療法により、精神的に安定し、外部刺激による反応の閾値(threshold)が上昇したことが関係しているのではないかということが述べられています。

たとえ認知症になったとしても、非言語的コミュニケーションというチャンネルは残っており、ここを通じた介入方法(intervention)というのは有効なのかなと思いました。

論文要旨

背景:
音楽療法(MT)は、認知症の行動および心理的症状(BPSD)に対する有効なアプローチとして提案されている。しかしながら、このアプローチの有効性を実証する研究は十分なされていない。

目的:
認知症の被験者におけるBPSDを低下させるMTの効果を評価すること。

方法:
認知症の49人がこの研究に登録された。入院時および8週後、16週後および20週後にミニ精神状態検査、Barthel IndexおよびNeuropsychiatry Inventoryを含む多次元評価を受けた。被験者は実験群(n = 30)または対照群(n = 29)にランダムに割り当てられた。 MTセッションは、標準化された基準で評価された。実験群は30 MTセッション(16週間の治療)を受けたが、対照群は教育支援または娯楽活動を行った。

結果:
NPI総スコアは、8週目、16週目、および20週目の実験群で有意に減少した(相互作用時間x群:F3,165 = 5.06、P = 0.002)。特定のBPSD(すなわち、妄想、興奮、不安、無関心感、過敏症、異常な運動活動、および夜間の障害)が有意に改善した。 MTのアプローチにおける感情的な関係と患者の積極的な参加は、実験グループでも改善された。

結論:
この研究は、中等度重度の認知症患者において、MTがBPSDを低下させるのに有効であることを示している。

Alzheimer Dis Assoc Disord. 2008 Apr-Jun;22(2):158-62. doi: 10.1097/WAD.0b013e3181630b6f.
Efficacy of music therapy in the treatment of behavioral and psychiatric symptoms of dementia.
Raglio A1, Bellelli G, Trafica

コンテンツ提供:脳科学リハビリテーション