脳が萎縮しても配線を良好に保てば記憶力が維持される?

佐藤洋平

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有名な認知症研究「ナン・スタディ」では、脳が萎縮していても若いころ語彙の多い文章を書いていた修道女が生涯認知機能を保っていたことはよく知られています。MCIの人で記憶を保っている人の脳の配線についての研究をご紹介します。

代表的認知症研究「ナン・スタディ」

認知症研究で有名なものにナン・スタディ(Nun Study)と呼ばれるものがあります。

この研究はアメリカに住む700名近い修道女を対象に、健康状態や生活歴など様々なデータを使って、どのような要因が認知症に関連しているかについて調べたものです。

驚くべきことに、教育の程度が高いほど(20歳時の文章能力が高いほど)高齢になっても認知機能が保たれやすく、また死後脳を解剖してみると、脳そのものはスカスカに萎縮しているにも関わらず、死の直前まで良好な認知機能が保たれていた例が数多くあったそうです。

こういったことから、若い時の教育によって脳細胞をつなぐ神経線維が太く頑強になり、
それゆえ年を取って神経細胞が減っても認知機能が比較的良好に保たれているのではないかという仮説があるそうです。

MCIでも脳の配線により記憶力が維持される

今回取り上げる研究では軽度認知障害(MCI)の人たちの脳の中の繋がり(connectivity)を見ているのですが、
軽度認知障害であっても記憶力が維持されているほど、脳の配線が比較的良好に保たれていることが示されています。

認知機能を見るには脳の形態だけではなく、脳領域がどの程度健康的につながっているかが、よりよく認知機能を反映するのかなと思いました。

論文解説

脳は様々な機能(視覚,注意,感覚,運動・・)に関わるネットワークが組み合わさった大規模ネットワークと見ることができ、
このネットワークの中でも、気持ちがぼんやりふわふわしている時に活発に活動するネットワークがあり、これはデフォルトモードネットワークと呼ばれます。

これとは対照的に「ウォーリーを探せ!」で一生懸命ウォーリーを探しているような時に活発に活動するようなネットワークがあり、これは背側注意ネットワーク(dorsal attention network)というものがあります。

私達の脳はボンヤリしながら集中することができません。つまりシーソーゲームのようにどちらかが上がればどちらかが下がる関係にあります。こういったシーソーゲームをうまく処理するのが、この論文によると左外側前頭皮質(LFC)であり、
記憶力が比較的よい人はLFCとデフォルトモードネットワークや背側注意ネットワークの繋がりが健康的な人に近かったことが示されています。

つまり脳の中のシーソーゲームがよくできているような脳の配線になっていたとのことです。

Front. Aging Neurosci., 07 August 2017 | https://doi.org/10.3389/fnagi.2017.00264
Resting-State Connectivity of the Left Frontal Cortex to the Default Mode and Dorsal Attention Network Supports Reserve in Mild Cognitive Impairment
Nicolai Franzmeier1*, Jens Göttler2,3, Timo Grimmer3,4, Alexander Drzezga5,6, Miguel A. Áraque-Caballero1, Lee Simon-Vermot1, Alexander N. W. Taylor7, Katharina Bürger1,8, Cihan Catak1, Daniel Janowitz1, Claudia Müller1, Marco Duering1, Christian Sorg2,3,4 and Michael Ewers1

コンテンツ提供:脳科学リハビリテーション